7月24日

 朝、何やら騒がしく会話を交わしているのが聴こえる。どうやら宿泊している外国人が昨晩ガラスを割ってしまったようだ。偶然割ってしまったにしては不思議な位置が割れていて、一体何が起きたのかと話し合われている。床には血の跡も少し残っている。とりあえずシャワーを浴びて、10時半、てんぶす那覇ホールへ。初めて上にあがってみたけれど、希望ヶ丘公園と、向こうに広がる市場界隈の様子が見渡せる。いつも宿の屋上から見ていた景色を、違う角度から見ることができる。11時、藤田貴大「めにみえない みみにしたい」観る。素晴らしかったと同時に、平日の昼公演ということもあり、観ることができなかった人がたくさんいることを惜しく思う。いくつかの作品のことが頭に浮かび、何より『cocoon』という作品が思い浮かんできて、それが少し意外に思えた。最初にこの作品を観たときは、そのことを思い浮かべなかった。

 昼、「大衆食堂ミルク」でちゃんぽんを食す。宿に戻り、仕事を少し進めていると、F.Tさんから「今からひとりで金壺食堂に行こうと思うんですけど、もうお昼食べちゃいましたか?」と電話がある。すいません、さっき食べちゃいましたと伝えて電話を切ったものの、バイキングを食べなくても、隣りでビールを飲んでいることはできるなと思い直し、宿の前で待ち構える。すると、平和通りではない路地からFさんが出てきて、「金壺食堂」とは反対の方向に歩いていく。しばらく進んだところで立ち止まり、後ろを振り返ったので、手を振る。いつも場所がわからなくなるとFさんは笑う。僕も『市場界隈』の取材を始めるまでは、路地と路地がどうつながっているのか、さっぱりわかっていなかった。缶ビールを飲みながら、感想をぽつぽつ話す。

 打ち上げによさそうなお店、知ってたりしますかと尋ねられたので、ちょっと考えておきますと伝えて別れる。近場でよさげな店はいくつかあるけれど、定休日だったり、閉店時間が早めだったりする。周辺をぶらつきながら悩んで、観光客向けではあるけれど、それなりに雰囲気のある建物で、皆に評判がよかったドゥル天やボロボロジューシーがあり、もしかしたらタコライスもあるかもということで、「波照間」を一押しの候補に入れて、LINEで送信する。17時近くになってメッセージが届き、よかったらサインを入れにきてもらえませんかとある。すぐにお店にお邪魔して、『市場界隈』のサイン本を作っていると、Fさんが通りかかり、「波照間」になりそうです、と教えてくれる。サインを入れ終えて、しばし話す。公設市場の庇の上を、いつもの猫が通りかかる。あの子の散歩コースも変わることになるんですねと言うと、そうですね、こないだは何があったのか駆け抜けていて、埃がすごい舞い上がって大変でしたと教えてくれる。あの猫は首輪をしているけれど、一体どこの猫なのだろう。通りの方を見下ろしながら、今日は何度も鳴いている。

 夜、シャワーを浴びて外に出る。「足立屋」で2杯だけ飲んで、「信」に流れると、テーブル席で飲んでいた方を紹介される。それは政治家の方で、縁側に座っているかのように気安い雰囲気で飲んでいたので、少し驚く。名刺をいただき、宿に名刺があるので、すぐに取ってきますと伝えて店を出る。宿で名刺を手に取り、その方がどちら側の立場であるのかをパソコンから確認して、店に戻る。『市場界隈』のことも、まだ手にできていないけど知ってくださっていたので、書こうと思った経緯や、自分が沖縄に足を運ぶようになった経緯をお伝えする。20時過ぎに店を出て、「波照間」に向かい、打ち上げに混ぜていただく。とても楽しく飲んでいたのだけれども、途中でイタリア滞在中に食べたバーベキューの話になり、そのバーベキューのことをまったく知らない様子で聞いている方がいて、ああ、イタリア滞在を書き記した「手紙」を読んでくれなかったのだなと、小さく思ってしまう。飲んでいるうちにその粒がどんどん膨らんでしまって、そそくさと帰ってしまう。