8月5日

 今のアパートに引っ越してから、ポストに投函された宅配ピザのチラシを保存している。宅配ピザが好きだ。実際に注文する頻度は年に数度だが、小さい頃に食べたくても滅多に食べれず、チラシだけ目にしていたこともあり、ピザ屋のチラシにはどこかあこがれが残っている。昨日ポストに投函されていたピザーラのチラシに目をやると、ピザを注文するたびに、エビマヨうきわを1個買えると掲載されている。欲しい、と思う。エビが大好きな僕はこれを買うべきだ。しかし、知人は里帰り中だ。ひとりでピザ一枚は食べ過ぎだろう。だからといって「ピザを食べないか」と誘える仲の友人もおらず、ピザーラのサイトのカロリー表示を何度も眺める。

 やっぱりエビマヨうきわが欲しいので、ひとりで食べることにしよう――そう思ったところにLINEでメッセージが届く。トークイベントの構成をチェックしてもらっていたムトーさんから、もうすぐチェックが終わるから、どこかのタイミングで渡せたら、とある。じゃあピザ食べませんかと誘って、19時半、「古書往来座」で待ち合わせる。ほどなくしてピザとうきわが届く。さっそくうきわを広げてみたけれど、こじんまりしている。膨らませる前に足を通してみると、膝上くらいまでしか入らなかった。どうやら子供用らしかった。やるせない気持ちになりながら、ピザを何切れか食べて、名画座手帳の打ち合わせをしていた皆さんにお裾分けする。

 池袋に飲みに出る。はっちは広島出身だからどう思うかわかんないけど、気になる広島風お好み焼き屋があるから、そこに行ってみたいとムトーさんが言う。南池袋公園を通り過ぎ、そのお好み焼き屋の前に出る。シブい感じではないけれど、悪くもなさそうだ。そう思っていると、少し前を歩いていたカップルが、手を繋ぎながら入店する。それを目にしたムトーさんが、いや、やっぱりあの店はやめとこう、はー、なんでお好み焼きを食うのに手を繋ぎながら入るかね、普通そんなことするかね、とぶつぶつ言っている。自分もぶつぶつ言ってしまうタイプだから、ムトーさんと気が合うのだろうなと思いながらも、人がぶつぶつ言っているのをみるのはなんだかおかしい。

 結局、美久仁小路にある「ふくろ」に入店。美久仁小路、いつのまにか演出されたレトロさが漂っている。「ふくろ」もリニューアルされて間もないらしく、少し新築の匂いがする。ホッピーで乾杯。文章を書くことについて、ああでもない、こうでもないと話し合う。「言葉にすると、どうでもいいことがどうでもよくなくなるんだよ」とムトーさんが言う。こうやって酒場で話してることがさ、ツイッターとかで言葉になると、いくらタイムラインが流れていくとはいえ、それに人が左右される、と。

 ちょっとトイレ。ムトーさんが席を立つ。戻ってきたムトーさんが、トイレが洋式に変わってる、と言う。話は変わり、「はっちはさ、自分が取材する対象のことを『好きじゃない』とか『思い入れはない』とか言うけどさ、絶対思い入れあるって。じゃなきゃそんなに同じところに何回も行かないよ、普通」とムトーさんに言われる。そこを「好き」って言っておけば、わかりやすく伝わって仕事に繋がったりもするのに、そこをまわりくどくブツブツ言ってるせいで、面白くないやつが持ち上げられていくんだよ。おいらはもっと、はっちや宇田さんの書いたものを読みたいのに。しばらく前に、ムトーさんと飲んだときのことを思い出す。あれは「往来堂書店」でのトークをした何日かあとに、改めてムトーさんを誘って打ち上げをしたとき、「はっちのことや宇田さんのことは、たぶんライバルだと思っているんだと思う」とムトーさんは言ってくれた。僕もムトーさんの文章を面白いと思っているし、どこかでライバルだとも思っている気がするけれど、そんなムトーさんに文章の依頼が少ないことを、とても不思議に思っている。