8月7日

 朝、ジョギングに出る。しばらく走ってなかったせいか、暑さのせいか、すぐにバテてしまう。不忍池を見ずに引き返し、アパートの扉を開けると知人がいる。昨日の夜行バスに乗ったことは知っていたけれど、稽古場に直行するものだとばかり思っていたので驚いてしまった。シャワーを浴びて、取材に向けた資料に目を通す。15時、市ヶ谷へ。猛烈な暑さだ。ゆっくり歩き、「ルノアール」に入り、喫煙席で打ち合わせ。もっと先の取材だと勘違いしていたけれど、向こう一ヶ月のあいだになりそうだ。なかなか緊張する現場もありそうだが、暑さのせいかぼんやりしてしまう。

 総武線で新宿に出る。17時半に京王百貨店で知人と待ち合わせ、ビアガーデンへ。知人はしばらく里帰りしていたし、今日から新作の稽古が始まるし、僕は沖縄に行く予定もあるしで、あまり夏を堪能することができなさそうだ。隙間を見つけて堪能しようと、急遽ビアガーデンに出かけることにしたのだ。これまではいつも単品で注文していたけれど、今日はたっぷり飲もうと、飲み放題を選んだ。京王百貨店の食べ物、年々残念になっている。もっとクラシカルな感じを求めているから、他ではなくここを選んでいるのに、「花椒香るスペアリブ」(2500円)や「贅沢!鉄板肉3種盛り」(2800円)など、やたらと高くてちょっと変わり種になっている。焼きそばやたこ焼きやフライドポテトでいいのに、「高菜レタスチャーハン明太子和え」(900円)や「鉄板熱々オムたこ焼きそば」(950円)、「アメリカンローディットポテト」(980円)と、謎の料理かつ強気の価格設定である。

 とりあえずビールで乾杯。飲み放題は1300円以上の料理をひとり1品注文しなければならないのだが、最初に頼んだ鉄板ワイルドソーセージ3種チョリソ入り(1300円)と4種の冷製ミートプレート(1300円)もすぐに運ばれてくる。ツマミながら、今日の朝思い浮かんだ企画について話をする。一昨日の夜に広島風お好み焼き屋に入りかけたとき、「これはニューウェイブお好み焼き屋だな」と感じたことを思い出す。お好み焼きも、広い意味では郷土料理のひとつだ。前のオリンピックから次のオリンピックまでのあいだに、郷土料理および郷土料理店のありかたも大いに変わったように感じる。60年代にはまだ「上京」は大きな意味を持っていただろう。都会に出てきて、知らない人に囲まれて暮らしているなかで、郷土料理店で味わう郷里の味は、安らぎを与えてくれる場所だったのだろう。

 それから少しずつ時代は変わってゆく。1970年に「ディスカバージャパン」のキャンペーンがあり、地方に向けられるまなざしが変わってゆく。21世紀に入るとB級グルメブームもあり、東京で地方の味を発信するための店も増えた。郷里を離れて上京した人たちに向けてふるさとの味を提供する場所ではなく、都会に暮らしながら各地の料理を消費する場所に変わってきたのではないか。何十年と営業している店から、ここ10年で創業した店まで、さまざまな「郷土料理店」を取材することで、その向こう側に二つのオリンピックのあいだに生じた時代の移り変わりをうっすら描けるのではないか――。そんな話を、知人はニヤつきながら聞いている。なんでニヤついているのかと聞くと、「もーちゃんは時代をうっすら描きがちやねえ」と言う。「ほら、言わんと。『僕たちはー、うっすら描く芸人でーす』って言わんと」と言って、嬉しそうにビールを飲んだ。