9月4日

 8時に起きる。知人は先に起きていて、身支度をして出かけてゆく。お昼、納豆を切らしていたので、オクラ豆腐そばを作って平らげる。今日は稽古場で通し稽古があるらしく、知人から「観にきて欲しい」と言われていた。まだチケットの売れ行きが芳しくないらしく、稽古場レポートを書いて欲しいと言われていたのだが、ある日突然お邪魔して、数時間滞在しただけでは、「現場はこんなムードでーす、初日はもうすぐ!」みたいなざっくりしたテキストにしかならないことは目に見えている。宣伝につながる企画の案は前から出していて、公演を間近に控えての、ドキュメント感のある座談会をと言ってあるのだが、そういう時間を取るのは難しそうだという。「通し稽古を観てもらって、客観的な感想を聞きたい」とも言われていたけれど、客演の出演者もいる現場で僕が感想を言い出してしまうと、バランスがおかしくなってしまうだろうから、今日は結局、稽古場に行かないことにする。

 進めなければいけない仕事が溜まっているけれど、コーヒーを飲んでいないせいでぼんやり過ごしてしまう。晩御飯の買い出しもかねて、「やなか珈琲」に出かけ、100グラムだけコーヒー豆を買う。コーヒーを淹れて、ひたすらテープ起こしをする。昨日の取材のテープ起こしを終える頃にはすっかり日が暮れている。ツマミを作り、チューハイを飲みながら、RKSP社のFさんが送ってくださった過去の記事を読み進める。社内のデータベースでは、より正確に過去の記事を検索できるというので、照会してもらったのである。いくつかのキーワードでお願いしておいたのだが、そのひとつは、1960年代、市場の建て替えに向けてどんな出来事が積み重ねられたのかということだ。

 地主から土地の返還を求める声が挙がり、別の場所に建て替える案が浮上したものの、それに反対する声が強く、市場事業者も賛成派と反対派に分断され、反対派の事業者が議会に乗り込む事態にまで至り、不審火で市場が燃えてしまう――そうした流れのことはもちろん知っていたけれど、どうしてそこまでの事態に至ったのか、なぜそこまで反対したのか、細かいことは把握できていなかった(当時のことは苦い記憶であることはあきらかなので、そこに深入りした質問はできずにいた)。送ってもらった記事を読みながら、そうだったのかと腑に落ちる。めからうろことはこのことか。今さら知るというのは『市場界隈』を書いた人間として恥じるべきことかもしれないけれど、納得すると同時に、あらたな疑問も浮かび上がり、それを連載の中で書き継いでいけたらと、部屋でひとり決意する。