9月7日

 目を覚ますと8時40分で、慌ててスーツケースから礼服を取り出し、クリーニング店へ。9時にお店にたどり着く。「今日要ります?」と店員さんに尋ねられ、はい、と答えると、「それやったら、13時過ぎには仕上がりますんでね、取りに来てくださいね。17時半にはもうおりませんのでね」と言われる。宿に戻り、シャワーを浴びて、歯を磨く。気づけば10分くらい磨いている。10時にホテルをチェックアウト。ケータイを充電せずに眠ってしまったので、ロビーにあるカウンターでケータイを充電しながら、3日に収録したインタビューの構成に取りかかる。

 13時に充電が完了し、新京極の「スタンド」へ。まずは瓶ビールを注文して、きずし、きずしと口の中で練習して、きずしを注文する。だいぶうまいこと発音できるようになってきた。ただ、沖縄のアンアンスーはまだうまく発音できないなと思い出す。最後の「スー」のところが、うまいイントネーションで言えない。ビールを飲み干したところで、樽酒とビフカツを注文し、平らげる。14時過ぎに店を出て、バスで「ホホホ座」。新入荷のお知らせで案内されていた『島根のOL』という本が気になっていたのだが品切れだという。何冊か購入し、京都国立近代美術館に移動して「ドレス・コード」展。マームとジプシーによる展示があるので、観にこなければと思ったのだ。

 その展示は、想像した以上に印象深く、驚かされる。そこには、おそらく“ひび”のメンバーに対していくつかの質問を投げかけ、そこで返ってきた答えを編集し、写真とともに展示されてる。そこで語られていることは、朝と夜にかかわる事柄で、それぞれのルーティンとも言える。その言葉を追いながら、藤田貴大という作家が描くのはいつも朝と夜だなと思う。世の中を動かしているのは昼だけれども、彼はいつも朝と夜を描く。朝と夜の世界というものを、わたしたちは基本的に、目にすることができずにいる。親しい友人であっても、基本的には相手が家を出るまでの時間に触れることはないし、家に帰ったあとの時間に触れることもない。その、ほんとうはみることのできないはずの時間を、藤田貴大はみようとする。彼自身は、ほんとうに多忙を極めていて、自分自身の生活というものは線が薄くなっているのかもしれないけれど、各地でワークショップ公演も重ねている。そうして膨大なサンプリングを重ねたさきに、どんな風景を描くのか、楽しみになる。

 そこに書かれたテキストを手元に追いておくためにも、展覧会の図録を購入し、再びバスで移動する。「フランソア」でお茶をしようかと思ったが満席で、それならばと10分近く歩き、「六曜社」でホットコーヒーとドーナツ。普段はそんなに食べないのに、ここにくるとドーナツが食べたくなる。17時に喫茶店を出て、時間ギリギリにクリーニング店にたどり着き、仕上がったスーツを受け取る。エクセルシオールに入り、仕事を進める。隣に女性の3人組がいて、会話が聴こえてくる。デブの少食ってマジで嫌い、どうやってその見た目になったのかってこっちは想像してるんやから、期待を裏切らんで欲しいわ、何があったんか知らんけど、痩せてるお前に興味はないわ、と散々な言葉を口にしており、思わず凝視する。

 夜、湖西線に乗り、敦賀に出る。この街を訪れるのは2度目で、ホテルにチェックインしたのち、前回も訪れた「まごころ」という居酒屋に入る。カウンターだけの小さなお店で、こんなに旅情にあふれた店もなかなか出会えないだろう。まずは瓶ビールと蛍いかの沖漬けを注文して、メニューを吟味する。ここでおでんの店でもあるので、おでんを注文することにする。大根と豆腐は好きだから決まりとして、あとは何にしよう。迷った挙句、昨日「赤垣屋」で食べられなかったロールキャベツと、おでんとしては珍しい手羽先を頼んだ。とても澄んだ出汁で、上品である。せっかく福井に来たのだからへしこやサバも食べたいけれど、それは前回注文したので、今回は僕の好きな食材であり、あまり東京の酒場では見かけない山芋の唐揚げを注文する。ビールを飲んだあとはぬる燗を飲んだ。気分が良くなって5杯もおかわりしたのだが、会計をお願いすると3300円で、信じられないような気持ちでホテルに帰った。