9月12日

 8時過ぎに起きる。昨日の朝に茹でておいた茹で玉子で朝ごはんをとり、原稿を書く。13時半、知人と一緒に「砺波」に出かける。平日で、ピーク時を外しているのに満席だったが、すぐに席が空いて入店する。壁にはサインが貼られている。閉店すると決まって取材が来たのかと思ったが、よく見ると数年前のもので、「整理してたら出てきたんですよ」とお母さんが笑う。まずは餃子とビールを注文する。待っているあいだにもお客さんがやってきて、相席するほどの盛況ぶりだ。ラーメンとチャーハンを追加で平らげて、会計をしてもらっているときに、さきほどのサインとは別に、今年8月2日づけで、玉袋筋太郎のサインがあることに気づく。町中華の番組で、ここにも取材にやってきて、もうオンエアがあったのだという。だから今日は盛況なのかと、今更ながら気づく。

 劇場に向かう知人と別れ、アパートに戻り、コーヒーを飲みながら原稿を書き進める。2日間のことを2400字にまとめるのは難しく、削ぎ落とすのに苦労する。削ぎ落とした先に残るのは、やはり風景のことではなく、聞かせてもらった話と、その向こうに見える時代のことだった。17時に書き終えて、メールで送信する。ふとツイッターを確認すると、3日の取材に同席されていた、畏怖する編集者・Uさんからダイレクトメッセージが届いている。Uさんも原稿をチェックしてくださったようで、特に書き原稿のほうは「心底素晴らしかった」と言ってくださり、嬉しくなる。感想を伝えることは大事だなと思う。頑張って原稿を書こう。

 ほんとうはテープ起こしに取りかかったほうがよいのだけれども、集中力が途切れてしまったので、晩酌を始める。昨日は豆腐ハンバーグを作るつもりで、豚ひき肉を買ってきていたのに、たまねぎを買い忘れていたので作れなかった。今日こそはとたまねぎを買ってきていたが、水分を抜いておいた木綿豆腐は昨日麻婆豆腐を作りかける際に使ってしまっていた。それならばとラープ・ムー(というよりも豚ひき肉のナンプラー炒め)を作り、録画が溜まっていた『偽装不倫』を最終話まで観る。「これからはもう自分を偽らない」というゴールにたどり着く、特に何も心に残らないドラマだったが、杏はやはり良い俳優だなあと思う。ドラマの中で、ただそのように生きている人に見えたのは彼女だけだったかもしれない。

 容量を空けるべく、すぐにブルーレイに焼く。焼いているあいだは録画を再生できず、『報道ステーション』をぼんやり眺める。野球の結果を観るでもなく眺めていると、ダイレクトメッセージが届く。手術が無事終わり、週明けには退院できるとあり、ホッとする。それと同時に、病院にお見舞いに行くつもりでいたのに、あたふたしているうちに退院の日が近づいていることに気づく。目の前のことですぐに容量が埋まってしまう。僕が石垣島に行ったことを知ってくださったらしく、西武ライオンズの平良選手は石垣島出身だとメッセージにある。

 その名前には聞き覚えがある。石垣島を訪れたとき、空港からずっと街灯のない道を走ってきたところに、突然明るい風景があらわれた。何かと思えば野球場で、「八重山商工の平良君は、去年プロに入って頑張ってますよ」とタクシーの運転手さんが誇らしそうに語っていたのだ。ちょうどテレビでは西武ライオンズ福岡ソフトバンクホークスの試合の様子が映し出されていて、西武のピッチャーが打たれる場面が映る。メッセージの中に「今日は打たれてしまいましたが…」とあったことを思い出し、今の背中は平良君だったのだろうかと思うも、それを知るすべはなかった。