9月22日

 7時半、身支度をする知人の気配で目を覚ます。知人が出かけたあとに起き、茹で玉子を作って朝食をとる。10時にアパートを出て、千代田線と山手線を乗り継ぎ、代々木へ。この連休にはF.Yさんのアトリエでオーダー会が開催れている。今日は取材として、オーダー会の様子を見学させてもらうことになっている。10時50分にアトリエに到着すると、壁に新作のニットがかけられており、棚や机にもたくさんニットが並んでいる。11時半、最初のお客さんがやってくる。邪魔にならないようにしながら、選ぶところを眺めて過ごす。その風景を眺めていると、胸が一杯になる。

 ヴィンテージのニットに染めと箔を施しているので、値段も決してお手頃ではなく、価格は8万円くらいになる。もちろんそれだけ素晴らしいニットだとわかっているけれど、普段の自分の生活を考えると、5万円を超える洋服となると、コートを何度か買ったくらいだ。8万円の買い物となると、おそらくきっと、大きな買い物だろう。ただ生きていくことだけを考えると、もっと廉価に済ませることだってできるのに、この服を着ると「選ぶ」姿を目の当たりにして、なんだか胸が一杯になってしまう。

 ニットを手に取り、まずは自分が着ている姿を想像している。そして、それを試着して、鏡の中に映る姿を見ながら、今度は自分の日々のなかでそれを着ている姿を想像する。しかも、今日のオーダー会では、自分の好きな場所に好きな色の箔を入れてもらえるので、まだ箔の押されていないニットを見つめながら、そこに箔が入ったところを想像している。そうやって未来の自分の姿を想像している姿にも、胸が一杯になる。それと同時に、僕は自分というものに目を向けなさすぎているのかもしれないなと思う。普段の生活でもあまり鏡を見ないし、服屋に入っても、あんまり鏡を見ることなく買ってしまう。

 どこに箔を入れてもらうか、ずっと迷っていた女性は、袖口にも箔を入れることを選んだ。そのニットは袖が長く、折り返して着るとぴったりのサイズだ。普段は袖を折り返して着て過ごして、たまに「今日は袖に箔が欲しいな」と思う日には袖を折り返さず、だぼっとしたサイズで箔を見せながら過ごしたい、と。ただ続いてく日々に、そうして「選ぶ」という行為を入れることで、その日々を自分のものにしていくのだなと思う。

 ひと組目のお客さんをお見送りしたところで、アトリエの外にテーブルを出して、Yさんとアシスタントの女性と3人で昼食をとる。僕は買っておいたおにぎりを食べた。13時半に次のお客さんがいらっしゃる予定だったが、何か急な出来事があったのか、ふた組目のお客さんはいらっしゃらなかった。Yさんはニットの穴を見つけては補修する作業を続けている。気の遠くなる作業だ。作業をしているYさんに、次の次の回に向けて、少し話を聞いておいて、14時45分にアトリエをあとにする。

 歩いて新宿に出て、「富士そば」(新宿店)へ。明日葉天そばをすすっていると、ばりっとした身なりをしたお客さんが次々やってくる。ちょうど休憩時間に入ったところなのだろう、伊勢丹で働いているとおぼしき人たちだ。この狭い富士そばには何度か立ち寄ったことがあるけれど、こんな風景があったのだな。そばを食べ終えると、バスで南池袋「古書往来座」へ。少し前にお願いした企画の相談にと思っていたのだが、やるべきことが山積みらしく、「今、スイッチがかちっ、かちって切り替わってて、『何をやろうとしてたんだっけ?』みたいになっちゃう」とセトさんが話してくれる。2冊ほど買って、また今度飲みに行きましょうと挨拶して店を出ようとすると、ちょうどムトーさんがやってくる。「あれ? はっちは今、日本にいるんだっけ?」とムトーさんが言う。

 池袋に出て、無印良品で必要なものを買い揃える。昨日、久しぶりに掛け布団を引っ張り出したのだが、カバーが見当たらなかった。まずは布団カバーを物色してみると掛け布団のカバーだけで7千円とある。今使っている掛け布団は4980円で買ったものだから、中身より外側のほうが高くなるのか……。とりあえず購入は見送り、靴用の防水スプレーや、小さな靴下干し、シャンプーとリンスを機内持ち込みの荷物にするためのミニ容器などを買い揃える。前に住んでいた環境に比べると、無印良品が少し遠くなり、旅先で立ち寄る機会の方が多くなっている。前に那覇を訪れたときも、「このタイミングで買い物しておこう」と思ってカゴに入れていき、会計をしようとしたところで「ああ、飛行機に乗るんだから、防水スプレーは運べないな」と気づき、商品を棚に戻したこともある。

 外に出ると、雨が降り始めている。ビックカメラに行き、7階の生活家電のフロアで炭酸メーカーのボンベを交換する。三連休とはいえ、ずいぶん混雑しているなと思っていたけれど、そうか、増税前の駆け込み消費だったのかとあとになって気づく。池袋までバスで出たことはあるけれど、バスでアパートに戻ったことがないなと思い、バスのりばを探し、浅草寿町行きのバスに乗る。スーパーマーケットに寄り、帰宅する頃には18時を過ぎている。