3月20日

 昨日の疲れが出たのか、久しぶりに9時頃まで眠ってしまう。知人が嬉しそうにしているのを、眠さのあまり、少し邪険に扱ってしまう。朝、たまごかけごはんを食べて、WEB連載の更新にむけてあれこれ準備を進める。近くのスーパーにオクラが並び始めたので、納豆オクラ豆腐そばを食す。16時過ぎにアパートを出て、まずは三軒茶屋の「AJTM」へ。取材させてもらった話をもとに執筆した原稿を、事前にチェックしていただこうとやってきたのだ。案内された席に座り、ホッピーセットとイワシなめろうを注文する。この時間でも大盛況で、そういえば今日は祝日だったのだと思い出す。

 おかみさんは隣のお客さんと話し込まれていたので、ホッピーセットを飲み干し、会計をお願いしたタイミングで「すみません、先日話を聞かせていただいた橋本です」とご挨拶。ああ、橋本さんだったの、私目が悪いから気づかなかった、ごめんね、こっちに座ればよかったのに、と笑ってくれる。そして、「ちょっと、時間ある?」と、僕を隣に座らせる。昨年末から体調を崩していて、来週にはもう一度検査に行き、そのまま手術になるかもしれないのだという。

 「だから、こないだ話しきれなかったこともあるから、それは紙に書いておいてあげるから、今度また取りにきて」とおかみさんが言う。そして、買ってきたばかりのセリを挟みで切りながら、そういえばこないだ、橋本さんのこと知ってる人がきてたよ、と教えてくれる。なんだかね、坪内さんの秘蔵っ子みたいな感じでどうとかって言ってたから、「あれ、ひょっとして橋本さんのこと」と私が言ったら、えっご存知なんですかと言われてね。いや――皆「鬼は外、福は内」なんて言うけど、私らみたいに商売してると、鬼だろうと福だろうとお客さんだからね。おかみさんはそう笑う。

 そこで僕のことを話していた人はきっと、僕のことをくさしていたのだろう。そのことを、僕がショックを受けないようにと、おかみさんは少し持ってまわった言い方をしてくれたのだろう。まあ、そういうことを言いだす人間がいるだろうとは思っていた。でも、そんなことに気を回して原稿依頼を断ることも、文章に「私なんて大した付き合いがあるわけでもありませんけど」と余計な目配せをいれることも、筆が汚れるような気がして避けてきた。まあ、だから、想定の範囲内ではある。僕のことを話してた人って、××さんって人ですかと尋ねると、おかみさんは「あら、お知り合いなの?」と驚いていた。

 他にも2軒、原稿確認をしてもらわなければ。地下鉄で神保町に出て、「ASN屋」に向かうと、シャッターが降りている。祝日は定休日だったのか。ひょっとしたらと、もう1軒の新宿「NKMT」に電話をかけてみると、電話は繋がらなかった。今日は「NKMT」で知人と合流して、レバニラとタンメンを平らげたのち、新宿3丁目「F」に流れるつもりでいたけれど、どうやら「F」も祝日は定休日であるようだ。急遽予定を変更して、交差点で知人と待ち合わせる。缶ビールを飲みながら歩き、「海上海」でお腹を満たしてから、「バー長谷川」でハイボールを3杯飲んだ。帰り際に、『本の雑誌』の追悼文読みましたと伝えると、僕も読みました、と長谷川さんが言う。