6月19日

 7時過ぎ、カメラを片手にホテルを出て、工事中の場所や、空き店舗になっているところ、古い看板を写しておく。小学生が登校してゆく。せんべろをやっている魚屋で、登校前のこどもがテレビを眺めている。「上原パーラー」は惣菜を台に並べ始めている。ジューシーおにぎりができるのは9時頃だというので、「セブンイレブン」(新天地浮島店)でたっぷりハムとタマゴのサンドとアイスコーヒー(L)を買う。ぼくが代金を支払っているあいだ、すぐ後ろに若者が並んでいた。間隔を空けて並ぶことに慣れているので、その距離にはっとする。7時55分、公設市場に立ち寄る。換気のためか、ガラス戸が開け放たれている。外からは中の様子が見えにくいガラスなので、戸を開けていると中の様子がはっきり見える。ホテルに引き返し、朝食。RBCをつけると『グッとラック!』が流れている。相変わらず「移動が解禁」と報じている。思わず「馬鹿が」と言ってしまう。移動するもしないも、その日にちまで国に決められる謂れはない。ぼくからすれば、近所のコンビニに出かけるのも、こうやって沖縄までやってくるのも、外に出るという点では同じことだ。

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 ケータイにちょこまか通知が届く。昨日のツイートが何度もリツイートされる。普段ぼくのツイートを読んでいる人たちに向けて「どう思う?」と伝えたかっただけなので、君らは誰や、リツイートしてないで自分でひとつひとつ考えてくれよという気持ちになる。11時45分、シャワーを浴びて部屋を出る。ロビーにはスーツケースを脇に置いた二人組がいる。半分寝転がってケータイをいじっていて、ロビーのソファーでそんなにリラックスできるものかと感心する。仮設市場へと続く坂を下ってゆくと、いつもこの坂で見かける茶トラが建物に向かって鳴き続けている。餌をねだっているのだろうか。「市場の古本屋ウララ」で少し立ち話。「上原パーラー」で300円のお弁当を、「セブンイレブン」(新天地浮島店)でオリオンビールを買って、パラソル通りで食べる。食事を終えると、パソコンを広げて原稿を書く。

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 ここに座っていると、いろんな会話が聴こえてくる。近くのテーブルには、オリオンの発泡酒を飲みながらラジオを聴いている二人組がいる。移動が「解禁」され、旅行客を乗せた飛行機が那覇空港に到着したと報じられている。「さっそくきてるよ」とひとりが笑う。「ビジネスはいいけど、観光は困るね」ともうひとりが言う。近くの喫茶店でコーヒーを飲んでいるお客さんが、「明日から大変よ。ヤマトからいっぱいくるって。当分こっちは通らないようにしようね」と話しながら笑っている。それを受けて、また別の誰かが「怖いね。ナイチャーが通ったら、こっちはもう座らない」と言う。ぼくはオリオンビールを着て、その会話を聴いている。これは、なかなかに大変な時代になりそうだ。はっきり書くがこれは差別だ。「これまでヤマトが沖縄にしてきたことを考えろ」と言われるかもしれないが、それとこれとは別だ。ここでは5月に入ってから新規感染者は出ていないのだから、「外から持ち込まれさえしなければ、もう感染者は出ない」と思うのは仕方のないことだけれども、それと「内地からやってきた人を、その人が内地に住んでいるという理由で避ける」というのは別の話だ。しかし、どんなに「差別は駄目だ」と言ったところで、その感情は広がってゆくだろう。

 「大変な時代になりそうだ」と思ったのは、それとは少し別の問題もある。「当分こっちは通らないようにしよう」「ナイチャーが通ったら、こっちはもう座らない」と言っていたのは、普段からまちぐゎーで過ごしている人たちであるはずだ。この界隈は、この20年のあいだに、地元客よりも観光客で賑わう場所になった(そのことに対して「地元相手の商売をしていない」と批判する声もある)。これからきっと、また観光客がやってくるようになるだろう。そうして観光客が集まる場所を、沖縄に暮らす人たちはきっと遠ざけるだろう。「あのあたりは観光客が多いから、行ったらコロナを移される」と。那覇から離れた場所に暮らす人たちは、余計にそう感じるだろう。でも、まさにまちぐゎーの中で過ごしている人たちがそう感じているのだとしたら、いよいよこの場所は遠ざけられることになる。だとしたら、これからこの一帯はどうなってしまうのだろう。那覇にくるまで、ぼくは「まちぐゎーに再び地元客がやってくる時代が到来するかもしれない」と感じていた。観光客が減った今こそ、地元の人たちも楽しめる場所になっていくチャンスではないか、と。でも、このままでは、地元と観光の分断がより一層進んでしまう。

 13時50分、仮設市場の様子を眺める。2階は各店舗を合計すると10組くらいのお客さんがいる。これでも前に比べれば空いているほうだけれども、昨日に比べるとちょっとだけ戻ったほうだ。2時間ほどホテルで原稿を書いたのち、もう一度仮設市場の様子を眺めにいく。1階にはまだお客さんが少なかった。グループ客が1組だけいて、肉屋の前でなにやら盛り上がっている。ぐるりと歩き、新天地市場中央通りに出る。通り会が消毒を呼びかける貼り紙を配ってまわっている。婦人服の店の店頭に布マスクが並んでいるのが目に留まる。5月にネット通販で買った布マスク、ゴムがだるだるになってしまっているので、ここで買っておく。おまけも入れておきましょうね、と店員さんが言う。あとで取り出してみると、塩飴が2個とポケットテッシュが小さな袋に入れられており、そこには「本日はお買い上げ頂き、誠にありがとうございました。またのご来店心よりお待ちしております」と手書きのメモまで同封されていた。

 市場中央通りを歩いていると、「市場の古本屋ウララ」に研究者のAさんの姿があり、挨拶して少しだけ立ち話。16時過ぎ、ひとりで「パーラー小やじ」のカウンターに座り、墨廼江を注文し、福田和也乃木希典』を読み返す。昨日もここで本を読みながら飲んでいた。今日の読んだ本も、今日の本も、びっしり付箋が貼ってある。墨廼江を2杯飲んだところで会計をお願いすると、店員さんが「その付箋って、どういうところにつけてるんですか?」と尋ねられたけれど、そうやって話しかけてもらえると思っていなかったのでうまく答えられなかった。ホテルに引き返し、原稿を書き進める。この調子なら明日には書き終えられそうだ。

 20時15分、ホテルを出る。ゆるゆると歩く人たちの姿。「これ、短パンやなかったら死んでたな」という声が聴こえてくる。国際通りの入り口まで歩く。あかりが灯っているのは2割程度だろうか。客引きの女性から声をかけられたワイシャツ姿の二人組が、するすると階段をあがり、二階の居酒屋に入ってゆく。営業しているお店はそれなりにお客さんが入っている。県外からの客がほんの少しだけ戻ったけれど、まだ制服姿の高校生が多く目に留まる。市場のあたりに引き返すと、せんべろの店はどこも大賑わいだ。今日は金曜日だからというのが大きいのだろう。このタイミングでわざわざ那覇を訪れる観光客はきっと、リゾートを満喫しようとするだろう。わざわざ那覇の路地にあるせんべろで飲むだなんて、そんなシブい選択をする人も少ないだろうから、きっと地元のお客さんのほうが多いのだろう。

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 21時、「うりずん」へ。ここはガイドブックにもよく掲載されているので、今日から観光客が増えるかと思っていたけれど、思ったほどの賑わいではなかった。白百合を2合飲んで、22時、「東大」の扉を開ける。「あ! 昨日、『片付けるから待ってて』って言ったでしょ!」と怒られる。3回も探しに行ったんだからと言われて、謝る。今日は貸し切りだ。おでんを注文して、残波の水割りを飲んだ。他にお客さんがいなかったから、ここ数年のお店のこと、話してくれる。ある時期からそんなにお客さんを呼ばないように営業をされているように感じていたけれど、なるほどそういうことだったのか。ボトルを飲み干して、新しいボトルを入れて会計をお願いする。ここはいつも帰り際に飴を2個くれるのだけれども、今日は4個も手渡してくれる。