6月20日

 11時45分にホテルを出た。まずは仮設市場を覗く。1階は閑古鳥が鳴いている。2階には昨日と同じく、全店舗を合わせて10組くらいの客入りだ。市場を出て、界隈を歩く。朝に羽田を出ても、ようやくこの時間に到着するぐらいだから当たり前かもしれないけれど、歩いているのは地元の人が多いように感じる。ちびっこを5人連れた女性が歩いている。こどもたちは市場中央通りで土産物店で足を止め、楽しそうに佃煮を試食している。市場本通りにある化粧品店では、中学生くらいの女の子がアナスイの広告を食い入るように見つめていた。地元の人の中にも、このタイミングで初めてまちぐゎーを訪れる人もいるのだなと思う。

 「上原パーラー」でネパールカレーとゴーヤのお弁当を買って、パラソル通りで平らげたのち、原稿を書く。後ろから何やら打ち合わせしている声が聴こえてきたので振り返ると、ロケ隊がいた。パソコンを広げていたら、撮りたい画にならないだろうから、移動してあげたほうがよいかもなと思っているうちに、ロケ隊は移動してゆき、遠くからハキハキした声でレポートする声が聴こえてくる。どうやら八軒通りでロケをやっているようだ。パラソル通りに面したお店の方達も、「何事だろう」と顔を覗かせている。アイスコーヒーのカップを手にした男女が通りかかる。「ここ、いいね。日本じゃなくて、どっか別の国みたい」と女性がつぶやく。しばらく原稿を書いていると、昨日は隣のテーブルにいた男性が、ぼくと同じテーブルに座る。発泡酒を2本手にしているのかと思っていたけれど、視界の端で確認すると、1本は発泡酒、もう1本はトマトジュースだ。口の中に違和感があるのか、足元に唾を2度落とす。明日からは鞄を地面におくのはよそうと思う。今は足元にトートバッグを置いている。

 14時30分、企画「R」の原稿を書き終える。やっと書き終えた! 推敲用に、セブンイレブンでプリントアウト。店内で地元っぽい女の子二人組がなにやら作業をしている。どうやらここで販売されているミニ扇風機を買ったらしく、パッケージから取り出し、電池をセットしているところだ。「市場の古本屋ウララ」に立ち寄り、「BOOKSじのん」に行くにはどのバス停で降りたらいいんでしたっけ、と尋ねる。レンタカーで何度か行ったことはあるけれど、バスで行くのは初めてだ。「皆さん、行くと大体『ついつい買い過ぎた』と言って帰ってくる」とUさん。

 バス停に行く前にと、もう一度仮設市場に立ち寄る。2階に上がると、「道頓堀」の佐和美さんの姿があったのでご挨拶。今日は何されてたんですかと尋ねられたので、人の流れを見ておこうとぐるぐる歩いてましたと答えると、「今日はこのあたりは駄目ですよ、皆さんここに行ってるんじゃないですか」と、沖縄タイムスを広げて見せてくれる。豊見城市に「イーアス」という商業施設がオープンするという記事が出ている。佐和美さんは新聞をテーブルに置き、何も頼まなくていいから、座って読んでくださいと言う。せっかくだからと生ビールを頼んだ。最近は新聞を置くようになったと佐和美さんが言う。今までは忙しくて新聞を広げてる暇なんかなかったけど、最近は新聞を読む時間ができたから、と。それに、お客さんに新聞でも読みながらゆっくりしてもらったほうが、お客さんが入ってくれるから、と。たしかに、ここ二日間、お客さんは一つのお店に集中する傾向があった。前はお昼時になれば満席で、いかに回転をよくするかが大事だったはずで、たった一年でこんなに変わるとは想像していなかった。

 ビールを飲んだところでお店を出て、国際通りでバスを待つ。カメラを提げた男性と、ブルーシールのアイスクリームを食べながら歩く女性が通り過ぎてゆく。きっと「沖縄は感染者が出ていないから安心」と、開放的な気分になっているのだろう。そうした観光客に地元の人たちが向けるであろうまなざしのことを考える(しかし、ぼくはここ数日ずっと、通りかかる人の服装や佇まいから「観光客」「地元」とに二分して考えているけれど、このまなざしもまた差別的だと言える。「観光客」と「地元」とを、それらしい類型に当てはめて考えているのだから)。15時10分頃になって、90番具志川行きのバスはやってきた。国際通りにのぼりが出ているのを、あらためて見る。昨日も視界に入っていたけれど、さほど気に留めずに見過ごしていたものだ。その存在に気づいたのは、さっき読んだ沖縄タイムスに「住民生活と観光両立へ」という記事が出ていて、その隣に「国際通り『安全』PR」と題した写真入りの記事を見つけたからだ。さまざまな標語が書かれたのぼりが国際通りに張り出され、新聞に掲載されたのぼりには「空高く風吹き抜ける/国際通りは/野外商店街です」と書かれている。ここで「野外」と強調されていることに、すぐ近くにあるアーケード商店街との対比が込められているように感じる。かつては国際通りもアーケード化を目指していたのに、それが叶わなかったのだということを思い出す。揃いのジャージを着た女の子たちが、ミニ扇風機を持って国際通りを歩いているのが見えた。これまで観光客が使っているのはよく見かけていたけれど、沖縄の子たちのあいだで流行り始めているのだろうか。

 広坂団地入口でバスを降りる。広々とした公園の真ん中にガジュマルがあって、家族連れがブルーシートを広げている。男の子ふたりは虫取り網を手に歩き、女の子はガジュマルに登ってしがみついている。「BOOKSじのん」に立ち寄り、あれこれ本を手に取る。2022年の『cocoon』までに必要になるはずだと、値段のことはまったく気にせず選んだ。会計は24200円だ。バス停まで引き返していると、ちょうどバスが通り過ぎてしまう。炎天下でバスを待つのはつらく、お金を使ったせいで却って豪勢な気持ちになって、タクシー(松島交通の車番16)で開南まで引き返す。ほんの少しだけではあるけれど、観光客が戻りつつある。Uさんのお店を通りかかったとき、値段を見ずに買ったら、なかなかの値段になりましたと伝えると、「古本って、値段を見ませんか」ともっともなことを言われてしまう。

 「足立屋」の前を通りかかると、外の立ち飲みエリアが空いていたので、せんべろセットを注文。今日はこないだ会えなかった店員さんたちが店番をしている。「いやー、大変でした」と店員さん。20日間くらい臨時休業して、ようやく再開したものの、やはり以前ほどの売り上げには戻っていないようだ。「三密の象徴みたいな場所ですからね」と店員さんは苦笑する。「でも、こっからV字回復目指して頑張りますよ」と。何が一番利益率が高いだろう。せめて売り上げに貢献しようとメニューを眺めてみても、せんべろの店だけあってどれも手頃な値段だ。ここのメニューの中では高価なきんきの焼き物を注文する。

 18時、ホテルに引き返す。企画「R」の原稿に少し手を加え、グループLINEに送信。20時、「セブンイレブン」(新天地浮島店)でオリオンビールを買って、飲みながら栄町市場まで歩く。今日の混雑ぶりはどうだろうと、おそるおそる扉を開けると、店員のAさんが「覗き見禁止よ!」と笑う。カウンターの端っこが空いていたので、そこに座らせてもらって、残波の水割りを飲みながら、ゴーヤの黒糖酢漬けとミミガーとハツの刺身をつまむ。「東大」のおでんと焼きてびちがテイクアウトできるという話が少しだけ広まってきたのか、持ち帰り用に焼きてびちをいくつか作っている。小一時間ほど過ごしたところで、Aさんのほうに視線を向けると、何も言わないでも「はーい、はしもっちゃん、おでん食べまーす」とAさんが言う。ここは日・月が定休日なので、今回の滞在では今日が食べおさめだ。次に食べられるのはいつになるだろう。いつもケータイで撮影しているごんたのことも、デジタルカメラで撮っておく。

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