7月14日

 朝から気が重く、窓を開け、いつもより念入りに換気する。6月23日に手にしてからずっと、「この本の書評を書かなければ」ということが、頭の中にずっと重石のようにあり続けていた。一度書き上げてみたものの、知人から「なんかよくわからん」と言われた。未知の読者にもこの本の意義が伝わるようにと、かっしりした書き方で書き始めてみたものの、「それでいいのか」と自分の中から声がする。その「意義」だけをピックアップして概説したところで、この本に収録した文を読んだとき、「なんだか細かいことばかり書いている」と思ってしまう人がいるだろう。初めて触れる読者にも、その細かいことにも――いや細かいことにこそ――込められていた何かがあるのだと探りながら読んでもらえる書評でなければ意味がないはずだ。そんなことを考えながら、毎日ちびちびと、ああでもないこうでもないと7割型書き進めていた原稿を、仕上げる。11時過ぎにようやく書き終えて、メールで送信。やっと。やっと書けた。

 昼は冷やし納豆オクラ豆腐そばを食す。『AMKR手帖』担当のAさんから電話があり、指摘された箇所をメモに取りながら話す。夕方には加筆した原稿を送り直した。これで締め切りの近い原稿はあらかた書き終えたので、いよいよ企画「R」の原稿を考えなければ。書き始めるまでに読まなければならない本をピックアップして、読書計画をカレンダーに登録してゆく。昨日から読み始めていた『斜陽』を読み終えたところで散歩に出る。定休日のパン屋さんを通り過ぎ、「往来堂書店」に立ち寄り、柴崎友香『百年と一日』を買い求める。ウェブで試し読みできるようになっていたけれど、やはり紙で読みたいと読まずにおいた。この本に書かれている言葉は、自分が欲しているものでもあり、(フィクションかノンフィクションかという境界線を外せば)自分が書きたいと思っているものだという予感がする。

 スーパーマーケットで新潟の茶豆を、「やなか珈琲」でコーヒー豆を購入し、団子坂を上がる。今日はあの本の書評を書き終えたのだから、飲んでしまおう。セブンイレブンに立ち寄り、ロング缶を2本買って、アパートに戻って茶豆を茹でる。知人は飲み会だ。飲み始めるときに、店員さんに「取り分けようにもう一膳お箸もらえますか?」って言うんで、ほしたらまわりの人らもぴりっとするはずやからの、と知人に伝える。「その場の空気に流されがちやけ、気をつけるんで」と念を押すと、「(私のことを)よおわかっとるやん」と知人が言う。持ち運び用の消毒ジェルも渡して、19時過ぎに送り出す。ぼくは茶豆をツマミながら、加藤典洋『太宰と井伏』を読み始める。2時間ほどで読み終え、今度は『井伏鱒二対談集』を読み始める。ビールを2本、チューハイを1杯飲んだところで、本を片手に外に出る。久しぶりで「たこ忠」にと思っていたら電気が消えており、それならばと根津のバー「R」まで足を伸ばす。この状況でまた客足が遠ざかっているのではと余計な心配をしていたけれど、ぼくが入ったあとで何組かお客さんを断るほど。ハイボールを2杯だけ飲んで、アパートに引き返す。