9月5日

 9時に目を覚ます。昨日の夜、「この土日がどこかに出かけるチャンスやないん」と知人が言っていた。来週の日曜日は大阪でライブを観るつもりだし(せっかくだから1泊するか、しかしこの状況下で東京から大阪に出かけて、標準語を話す客が気兼ねなく飲めるお店はあるだろうかと迷っている)、15日から2週間ほどツアーに帯同することになっているので、「週末に知人とどこかで外食する」という機会はしばらくなくなりそうだ。知人が「天外天の麻婆豆腐を食べたい」というので、シャワーを浴びたのち、12時半に「天外天」に電話をかけてみる。席は空いているようなので、「5分後に伺います」と伝えて電話を切る。

 お昼時だと満席で待つことも多かった「天外天」だけれども、今日は空席がある。ランチメニューの中から、麻婆豆腐と、季節の野菜と海鮮炒めをそれぞれ注文。ランチセットは棒棒鶏かエビチリの小皿がついてくるらしく、メインの料理もシェアするつもりなので、小皿もそれぞれ別のものを注文し、ビールで乾杯。麻婆豆腐は大辛にしてもらったけれど、ほとんど辛いと感じなかった。知人と暮らすまで、カレーのルーは甘口を選ぶほど辛い物が苦手だったのに、すっかり味覚が変わっている。瓶ビールを2本飲み干したところで、知人は引き続き瓶ビールを、ぼくは紹興酒を頼んだ。よくお飲みになりますねえ、と店員さんが笑う。定期的にきてくださるお客さんがいるんですけどね、そのお客さんはね、いつもふたりで瓶ビールを8本飲むんですよと教えてくれる。「必ずですよ、必ず8本なんです」と、念を押すように店員さんが言う。最後にデザートが運ばれてきて、ゆっくり食べようかと思っていると、後ろのテーブルに座るお客さんが咳き込み始めて、そそくさと店を出てしまう。

 午後は『cw』誌のテープ起こしをしたのち、企画「R」に向けて読んだ資料のうち、付箋を貼った箇所をワードに書き出してゆく。無心でタイピングしているうちに日が暮れて、つけっぱなしのテレビでは『ジョブチューン』が始まる。今日はピザ職人がピザーラのピザを審査するという企画が放送されている。普段はドミノピザばかり利用するので、ほとんどピザーラは頼んだことがないのに、気づけばピザーラを応援しながらテレビを眺めている。本場イタリアで修行して自分の店を構えたピザ職人たちが、ピザーラのピザを全否定する映像を眺めているうちに、「そりゃ日本の宅配ピザは本場のそれとは全然別物かもしれないけれど、こっちは本場のピザじゃなくて宅配ピザのほうが馴染みがあるんだ」と、妙にピザーラを応援してしまう。応援してしまうよね、とビールを飲み始めている知人に確認してみると、「いや、別に」とあっさり否定されてしまう。

 21時に仕事は中断して、知人とビールで乾杯。この時間になってもほとんどお腹が減らなかった。「天外天」でお昼を食べると、そんなにデカ盛りの店というわけでもないのに、ずっと満腹だ。輪切りにしたちくわをツマミながら、今更ながら『いだてん』を観始める。去年は途中で脱落してしまったので、6話から観た。このあたりは去年も観ているのだけれども、この1年のあいだに企画「R」に向けて明治以降の歴史をあれこれ調べているので、また違った面白さがある。松尾スズキが演じる橘家円喬が若き日の志ん生に「(落語を)耳でおぼえちゃ駄目だ。足でおぼえるんだ」と語りかけるシーンで、知人がぼくのほうを見て、「おんなじやね」と言う。最初は何を言っているのかわからなかったけれど、どうやら「お前も“足で書く”というスタイルの人間だろう」と言いたいらしかった。そこまで格好良いことを言えるかどうか、ちょっと心許なくなる。ビールを2本、チューハイを3杯飲んだところで眠りについた。