10月23日

 朝の情報番組が、アメリカでトランプ支持を訴える日本人を取り上げている。アメリカ在住というわけではなく、日本からわざわざアメリカに渡って応援しているようだ。そのうちのひとりが、トランプ支持を訴える旗だかボードだかを掲げて街頭に立っていると、通りかかった車がクラクションを鳴らして通り過ぎてゆく。「国籍が違っても、私がトランプさんを応援していると、こんなふうに応援してくれる人がいるんです!」と嬉しそうに語る姿に、その人の日本での暮らしを想像してしまう。トクヴィルの「砂粒化」する個人という言葉を思い出す。

 12時過ぎ、国際通りで待ち合わせ。写真家のT.Kさんの運転するクルマでピックアップしてもらって、中部に向かう。13時45分から『cw』誌の取材。話を聞かせてもらったあとに、イラブーしんじをいただく。イラブーは「ウミヘビ」で、しんじは「汁」。これまでイラブーというと、丸まった燻製が吊るされているのは目にしたことがあっても、一度も口にしたことがなかった。だから少し身構えていたのだけれど、取材のあとに出してもらったしんじ(具材はなく、汁だけ)は、一口飲むと内臓が温まってくる感じがして、イラブーが薬膳料理とされてきたことに納得が行く。そのお店は週に2日しか営業しておらず、ほとんど予約で埋まっているそうだけれど、近いうちに食べにこようと誓う。

 取材後に少しコザを巡る。途中で有名だというパン屋さんに立ち寄ることになり、ぼくはベーグルを3個買っておく。プラザハウスで開催されている展示を観たのち、16時半には那覇に戻り、ベーグルを持ってUさんのお店に向かう。Uさんのお店のお向かいにあるお店に「今度取材させてもらえませんか?」と以前からお願いしていて、ちょっとしたお土産になればとベーグルを買っていたのだ。1個はUさんに手渡して、残りをお向かいさんに渡すつもりだったのだけれども、いきなりベーグルを渡しても引かれてしまうだろうか。いっそのことUさんに3個とも渡そうかと思ったのだけれども、「え、せっかくだから渡したほうがいいじゃないですか?」と背中を押されて、お向かいさんのお店にも渡しにいく。喜んでもらえてホッとしつつ、今度ぜひお話をとお願いしておく。

 まだ外は明るいけど、もう飲みに行こうか――そう思って界隈を歩いているうちに、昨日の立ち話が思い出される。もしもぼくが取材をお願いしているときに、「『店の歴史を聞かせてくれ』って、そんなことアンタに話して、それでうちの売り上げがよくなるのか?」と言われたら、かなり落ち込んでしまうだろう。実際に、取材をしているうちに心が折れそうになることは何度もあった。そのたびに、歴史を記録することに関心を持っているその人がいて、ぼくの話をときどき聞いてくれるから、今日まで取材を続けてこれたところがある。そのことだけは伝えておこうと、立ち話をしに向かうと、一晩経ったこともあって案外すっきりした様子だったので、ホッとする。

 16時半に酒場に向かい、ビールと蒸し鶏ポン酢を注文。「今日は知り合いから連絡がたくさんありました」と店長さんが教えてくれる。取材させてもらった記事が今日の文化面に掲載されたのだ。ビールを2杯飲んだところで一度店をあとにして、ホテルに戻り、企画「R」の原稿を完成させてLINEで送信しておく。18時半に琉球銀行牧志市場出張所)――ここも来年2月にはなくなってしまうという――の前で待ち合わせて、写真家のTさんと、それに編集者のTさんと3人で取材の打ち上げをする。飲んでいると、常連客とおぼしき人たちが今朝の新聞記事を話題にしている。現物を手にしているお客さんがいて、その人が別のお客さんに手渡すと、「俺は読まないよ」と言ってるのが聞こえる。ここのお店は人気のお店だから、席が埋まっていて入れないことも多かった。それがコロナの影響で少し落ち着いて、入りやすくなっていたところなのに――という気持ちがあるのだろう。途中で店長さんが「あちらにいるのが、記事を書いてくれた方です」と紹介してくれたけれど、ぼくはひたすら墨廼江を飲んだ。