10月30日

 7時半に目を覚ます。茹で玉子を2個頬張り、質問リストをパソコンにタイプしてまとめてゆく。どんなふうに言葉を交わそうか。どんなふうな聞き方をすれば深いところまで話してくれるか。初対面であるだけに、ああでもないこうでもないと考える。掲載される文字数は4万字を予定しているかなりのロング・インタビューではあるけれど、取材できる時間は2時間だ。12時頃になって編集者の方からも質問案がメールで届き、そのいくつかを取り込みつつ、13時半に質問リストが完成する。そのメールの中に、「橋本さんの仮定が先入観にならぬようお気をつけください」と書かれてあって、緊張しながら身支度をして、取材先に向かう。

 話を伺う方は、前に別の予定が入っているということもあって、14時45分には建物の前で待機しておく。それは「この時間までに」と言われた時間より少し早い時間だったのだけれども、もしも前の予定が早く終わった場合、そのぶん長めに話を聞かせてもらえるかもしれないと思ったのだ。小学生が下校してゆく。小さな子が、細い路地を渡るときにまで手を上げている。こんなふうに立ち尽くしている大人というのは不審者にカウントされうるのだろうなあと思いながら、音楽を聴き、自分を奮い立たせる。15時35分に建物の中に入り、すぐに取材が始まる。うまく話せるだろうか。緊張していたのはその一点に尽きるのだけれども、とても真摯に話してもらえて、相手の答えに耳を傾けてそれと同時にこのあとの質問の流れを必死に考えながらも、この時間がずっと続けばいいのになと思った。まだ自分がライターでも何でもなかったころから知っている人と、こうして話していることの不思議さ。

 良いインタビューになったのではないかと思いつつ、建物を出る。ぼくはローソンに立ち寄って、缶ビールを3本買って、ひとしきり除菌してから駅のホームで飲み始める。ほとんど何も考えられないまま、音楽を聴きながら電車に乗り、東大前まで帰ってくる。知人には最初、「はー」とだけLINEを送っていたのだけれども、そんなふうに「はー」とだけ送ってくるときはポジティブなことがあったときだと伝わったらしく、飲みに行こうと誘われる。知人と飲みに出かける機会もずいぶん減っているので、どこかある程度は安心して飲めそうな店はないかと探してまわり、一度だけ行ったことのある「楽聞」で待ち合わせ。7本盛りのコースをツマミに、伯楽星という日本酒をしこたま飲んだ。