11月5日

 7時過ぎに目を覚ます。午前中の新幹線で西に向かうつもりでいたけれど、洗濯機をまわし、原稿を書いているうちに時間が経ってしまう。12時過ぎの新幹線で新大阪に出て、快速と鈍行を乗り継ぎ、16時前には灘駅にたどり着く。ゲストハウス(僕の部屋は個室)にチェックインしたのち、ぐるりと水道筋を歩く。16時半に韓国鉄板焼き屋に入り、サッポロの瓶ビールを飲みつつ、ぽつぽつ話を聞かせてもらう。小一時間で店をあとにして、大阪へ。今日はオリックス劇場で「芍薬」というイベントが開催される。入り口に張り出されたQRコードをスキャンし、連絡先などを入力して、体温を測定されて手指を消毒し、ようやく中に入る。これだけ厳重な対策を施しているというのに、あごマスクで行き来している観客がいて神経を疑う。

 19時過ぎ、ライブが始まる。先に登場したのはカネコアヤノで、今日もバンドセットであるらしかった。客席のあかりは真っ暗なまま演奏が始まったこともあってか、2曲目の「かみつきたい」にグッとくる。この曲の歌詞にあるように、どこかから抜け出して夜の街をさすらっているような気分になってくる。こないだの大阪城音楽堂で披露していた「序章」、今日も何曲目かに演奏されている。この日印象的だったのは「爛漫」で、これまでに聴いた中で一番胸を打たれた。今という日々の中で、誰もがどこかで感じているであろうフラストレーションが、歌の中に詰まっていたように思う。ライブは素晴らしかったのだけれども、隣の観客がしきりに時計を見ていて、「時間なんか気にしてんじゃねえよ」と苛立ってしまう。そこで苛立つというのは、誰かの感情をコントロールしたいと思っているわけだから、よくないことだとわかってはいるけれど、どうしても苛立ってしまう。

 カネコアヤノの演奏が終わると、セットチェンジとなった。後ろの席から、「なんか、音響が良くなかったな」と会話する若者の声が聴こえてくる。「お風呂の中で聴いてるみたいで、全然集中できなかった」と。たしかに音響は微妙だったけれど、感想がそれしかないのかと、ここでも苛立ってしまう。15分近い休憩を挟んで、中納良恵の演奏が始まる。弾き語りだというのに、ずっとハウリングが生じている。さすがにちょっと、音響スタッフに「プロだろ?」と言いたくなってしまう。それとは別に、何曲目かで観客に合唱させていて、ちょっとドン引きしてしまう。ほとんどの観客はマスクをつけているとはいえ、今この状況で観客に合唱させるというのは、どういうつもりなのだろう。どんな緊張感で足を運んでいると思っているのだろう。

 普段はそんなことしないのだけれども、スタッフらしき方に話しかけ、「マネージャーの××さんはまだいらっしゃいますか?」と連絡をとってもらう。しばらく前にムトーさんから預かっていた、室生犀星記念館で販売されている、「われはうたえどもやぶれかぶれ」と書かれたサコッシュを手渡しておきたかったのだ(その文字を書いているのはムトーさん)。今日のライブは、このフレーズがすごくぴったりくるライブだったような気がする。ご本人はもう会場を出られていたけれど、マネージャーの方に手渡すことができてホッとする。会場の外で、同じくライブを観にきていたY.Eさんと落ち合って、どこか入れる店はないかと探して歩く。ぽつりぽつりと店はあるのだけれども、どこも密だ。しばらく彷徨ったのち、「珉珉」(本町店)は入り口の扉も開け放たれていて落ち着ける雰囲気だったので入店し、ビールで乾杯。