11月19日

 7時過ぎに目を覚ます。昨晩は冷房と灯りをつけっぱなしにしたまま眠ってしまった。そのせいか、微妙に体調が下降線を辿っているのを感じる。もしかしたらコロナに感染してしまったのではないかと、若干不安になる。この1週間の行動を仔細に振り返ってみる。家の外でマスクを外した時間のことを振り返ってみたけれど、あのわずかな時間で感染してしまった可能性は限りなく少ないはずだ。ただ、そのわずかな瞬間に感染した可能性がゼロとは言えず、朝から界隈を散策したついでにセブンイレブンで紙パックのアイスコーヒーを買ってきて、ホテルで飲んでみる。コーヒーの香りを感じるから、きっと無事なのではないかと思うけれど、心のどこかに不安は残る。

 12時過ぎ、バスに乗って浦添を目指す。『市場界隈』のトークイベントを開催したときに聴きにきてくださったお客さんの中に、港川レストラン「rat &sheep」の方がいた。そのときに名刺をいただいてから、「いつか食べに行ってみよう」と思っていたものの、そのまま月日が流れてしまっていた。ふいに「今日だ」と思い立って、食べにきたのだ。国道58号線から東に入ると、アリゾナ・ストリートという看板が見えてくる。そこを歩いてゆくと、いわゆる「外人住宅」が見えてくる。今となってはレトロに感じる平屋をリノベーションしたお店が軒を連ねている。これは、ぼくがほとんど目に触れてこなかった沖縄の風景だ。「rat & sheep」に入ると、ヤギ肉のカレーと一緒に、思わず生ビールを注文してしまう。ぼくは月に1度文化面に連載しているけれど、そこで取材対象としているのは、沖縄本島の中でも1パーセントにも満たない狭い範囲だ。その偏りについて、改めて考える(それでもやっぱり、ぼくはその範囲のことを書いておきたいと思うのだけれど)。

 食事を終えたあと、「オハコルテ」というお菓子屋さんを尋ねる。昨日、「たてつ制服店」の方にフライドポテトやらせんべろチケットやらをお裾分けしてもらったので、そのお礼にヒラミーレモンケーキと、それとは別に、タルトサンド(4個詰め合わせ)を買って那覇に引き返す。タルトサンドは4個セットからしか販売されていなかったので、一個は自分で食べるとして、残りの3個はお裾分けすることにする。とあるお店を訪ね、「これ、食べてみたかったんですけど、4個セットでしか売ってなくて。賞味期限もある商品なので、もしよかったら召し上がりませんか?」と2個プレゼントする。

 このお店には、以前から「いつかお話を聞かせてもらえませんか」とお願いしていたけれど、「うちなんか取材しても、面白い話なんか出てこないよ」と言われてしまっていた。タルトサンドを渡した流れで、今日こそはとお願いしてみると、椅子を出してくれて、話を聞かせてくださった。取材後には「この記事が掲載された新聞を、わたしの棺桶に入れてもらわないといかんね」と笑ってらしたので、話を聞かせていただけてよかったなと思う。

 タルトサンド、1個は自分で食べるとしても、もう1個余っているので、向かいでお店をされているUさんにもお裾分けする。「『話を聞かせてもらえませんか?』と話しかけるきっかけに、何か差し入れのお菓子が必要になるなと思って買ったんですけど、もしお嫌でなければ一個召し上がりませんか?」と伝えると、「話しかけるために、そんなにきっかけが必要なんですか?」とUさんは不思議そうに言う。今日の東京の新規感染者は過去最多を更新してしまったので、「こんな状況になると、『東京からきてます』って言い出しづらい状況になっている気がする」とぼくが言うと、「いや、でももう、そんなことを気にしてる人はほとんどいないんじゃないですか」とUさんが言う。たしかに、そんな感じはする。ホテルに引き返し、テープ起こしを進めていたのだけれども、やっぱりどこか具合が悪いような気がする。ここ最近は仕事に追われていて、疲弊してしまっているのだろう。今日は飲み歩くのはやめにして、ファミリーマート沖縄そばを買ってきて平げ、早々に眠りにつく。