1月1日

 7時半に目を覚ます。つけっぱなしのテレビでは『爆笑ヒットパレード』が始まっていて、流れ星がネタを披露しているのをぼんやり観始める。しばらくすると占いコーナーが始まり、「携帯電話の下四桁を足すと運勢がわかる」と占い師が言い出す。占われているのは女性タレントで、朝日奈央は「男性化しやすい」運勢にあり、「13という数字を待ち受け画面にしておくと女性らしさが出る」とアドバイスをしている。「男性化」だとか「女性らしさ」という言葉を年明け早々にオンエアしていて大丈夫なのだろうかとも思うけれど、それ以上にこんなうさんくさい占い師を登場させていいのだろうかと不安になる。そもそもどうしてこんなにテレビは占いで溢れているのだろう。

 腹が減ったので餅を焼く。最初はガスコンロに魚焼き器をのせて焼いていたのだけど、コンロのセンサーが何かに反応して火が小さくなってしまう。それだと時間がかかりそうなのと、ずっとキッチンで焼け具合を見ているのも退屈なので、カセットコンロを取り出して、居間でテレビを見ながら餅を焼いた。うまく焼けずに焦げてしまい、部屋が焦げくさくなってしまった。「吉池」で「つきたて」と銘打って売られていた餅、知人は白いのを、永谷園のお茶漬けに入れて平らげている。ぼくは白いのと緑のを砂糖醤油で食べた。これまでに食べた緑色の餅の中でいちばん草の香りがする。

 チャンネルはずっと『爆笑ヒットパレード』に合わせていた。この番組は毎年ナインティナインが司会進行を務めているのに、どういうわけか今年は霜降り明星が代役を務めている。ナインティナインもずっとスタジオにいるのに、司会の席ではなく、ひな壇に座っている。そして代わりに進行をしている霜降り明星は、普段の立ち位置ではなく、ナインティナインと同じ立ち位置(向かって左に長身のツッコミ、右に小柄なボケ)に変えさせられている。ナインティナインはふたりとも年齢を重ねて、長時間立ったまま進行するのがしんどくなってきたのだろうか。でも、だとすればもう後輩にMCを譲ればいいのに。矢部がせいやに「台本一生読み込んできてるけど、『どうぞ』しか言うてへんな」と言っているのを観ると、嫌な上司にしか見えなくなってくる。知人も矢部に対してずっとぶつくさ言っている。

 M-1チャンピオンのマヂカルラブリーがネタを披露したあと、野田がナインティナインに向かって「どっち派ですか、僕らの、漫才なのか、漫才じゃないのか」と問いただす。マヂカルラブリーのネタに対して「あれは漫才じゃない」という反響が起こっていることを知らなかったのか(あるいはピンとこなかったのか)、矢部は「どっち派とかはない、チャンピオンやと思ってる」とよくわからない返答をすると、「うわ、濁らせてきた」と野田が率直に言い返す。それにしても、正月早々こんなふうに切り込む野田もすごいなと感心する。ナイツは昨晩の紅白とRIZINを早速ネタにしていて圧巻だった。

 ネタの時間が続き、なかなか風呂に入れずにいたけれど、ゲームコーナーが始まった隙にシャワーを浴びる。実家で正月を過ごしていたときは、自分の好きなようにはテレビを観ることができなかったから、「ゲームコーナーなんてやらずに、ネタばかり放送してくれたらいいのに」と思っていたけれど、こうやって好きなだけテレビが観られる環境にいると、ゲームコーナーが入るおかげでシャワーを浴びたり食事の支度をしたりできるのだなと感じる。11時半、池之端の「扇」で買ってきたおせちオードブルを開封し、ビールで乾杯。「吉池」で買ってきた明石のたこと、ブリの刺身も切ってテーブルに並べる。ビールは1杯だけにして、2杯目からは日本酒(宮城の日高見)を飲んだ。『爆笑ヒットパレード』のショートネタのコーナーにヒガ2000という初めて観る芸人が登場し、港区女子に呪詛の言葉を吐いていて面白かった。いくつか不穏な空気のネタがあって、それが妙に居心地が良かった。今日は朝からヒロミの別荘からの中継が挟まれていて、正月に芸能人の豪邸が映し出されることはよくあることではあるのだけれど、「こんな豪華な家に暮らせる人がいるけど、今も正月どころではない状況に置かれている人がいるんだよな」と思っていたところだった。しかし、ぼくはどうして今更そんなことを感じたのだろう。コロナ禍になる前だって、ずっとそうだったはずなのに。

 たらふく飲んだので、14時には眠ってしまう。知人も同じように昼寝していた。気がつけば16時過ぎ、日が傾いている。雲一つない天気だったのに、どこにも出かけないまま一日が終わってしまう。近所のコンビニに出かけ、知人から頼まれていた永谷園のお茶漬けの素と、ウィスキーの角瓶を買っておく。若い3人組が缶チューハイを飲みながらたのしそうに歩いている。コーヒーを淹れて、一息つく。実家から送られてきたもみじ饅頭から、知人はクリーム味を、ぼくはつぶあんを選んで食べる。録画してあった『M-1アナザーストーリー』、ようやく観る。見所はたくさんあったけれど、やはりチャンピオンのマヂカルラブリーのストーリーが印象深い。2017年のM-1で最下位となったことで、自分たちはもう漫才を披露できないのではないかというほどショックを受けたところから、M-1に挑み続けて優勝に漕ぎつける。2017年から――もっと言うと結成したばかりのころから――彼らは何も変わっていなくて、変わったのは世間の目だ。以前はキワモノのように見られていたのに、この3年で認知が広がり、爆笑をかっさらう。そこで「ごめん」と言った上沼恵美子もすごいなと思う。番組の最後に、野田は母親に電話をかける。15歳から芸人をやってきた野田クリスタルだが、親にはずっと芸人をやることを反対されていたという。野田は3人兄弟の末っ子で、兄は成績優秀。父も長男も公務員だそうだ。ある日、野田は腹から「芸人の夢をあきらめて、普通に就職したら」と言われる。それに対して野田は「俺に死ねっていうことだな」と答えたのだと、母が語る。この母との電話のやりとりがあまりにも印象的で、すぐに別の番組を再生する気にはなれず、しばらくぼんやりしてしまう。

 19時、今度は上野松坂屋のデパ地下で買ってきた「美濃吉」の煮しめ重を開封する。8千円くらいのやつだから、そこそこの中身だろうと思っていたけれど、思いのほか豪華だ。角瓶のソーダ割りを飲みながら『おもしろ荘』を観て、日本酒を飲みながら『ドリーム東西ネタ合戦』を観た。酔っ払っているから記憶はどんどんおぼろげになっていくけれど、ネタばかり観て過ごすことができて幸せだ。

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