2月5日

 7時半に目を覚ます。スープ春雨にお湯を入れて平げて、テープ起こしに取り掛かる。一向に終わる気配が見えず。昼は知人にサッポロ一番塩らーめんを作ってもらう。おでんの仕込みをして、14時過ぎに出かける。東京駅のエキュートにある資生堂パーラーでサブレを2箱買って、高円寺に出る。まずは取材(と、自宅で夕食をご馳走になった)お礼に、「コクテイル書房」に向かう。店内に灯りはついているのだが人の気配がなく、サブレを置いて、ツイッターからダイレクトメッセージを送っておく。その後、「即興」というお店に立ち寄り、展示を観る。撮影した和平さんも、被写体となった静流さんも店内にいた。サブレを手渡し、ポストカードを買って店をあとにする。

 せっかく出かけたのだからと、新宿で途中下車する。かつて改札があった場所を、Suicaをタッチすることもなく通り過ぎることにまだ慣れない。ベルクに入り、ビールを1杯飲んだ。店内には随所に「Silent Berg」の張り紙があり、私語はお慎みください(大声での会話は×)、30分以上の店内でのご利用はご遠慮ください、と書かれている。それでもマスクを外したまま会話をしている人もいる。紀伊国屋書店新宿本店をのぞき、日記リレーの『新潮』、國分功一郎若林正恭の対談が掲載されている『文學界』、第三の新人小特集と「消しゴム式」が掲載されている『群像』を買う。文芸誌を3冊も買うのは久しぶり。2階にはノンフィクションやエッセイやサブカル棚があったけれど、その比率が減り、ほとんど写真集になってしまったように感じる。気のせいだろうか。伊勢丹の前を通りかかると、「出口専用」と大書された扉の前にガードマンが2人も待機している。

 副都心線西早稲田へ。地上へとエスカレーターに乗っていると、ホームに降りていく大学生たちとすれ違う。髪の毛の色が金やシルバー、ピンクに染まっている。金髪やピンクに染めた若者は、20年前にもいたけれど、大学生(特に早稲田界隈で見かける大学生)だと、ほとんどの場合どこか不恰好に見えていた。でも、今の若者たちのそれは、とても馴染んでいるように見える。早稲田で見かける若者の多くは、こんなにお洒落ではなかった。でも、断片的に聴こえてきた会話はいかにも二十歳前後の若者という感じがして、だとすると、どちらがより幸福なのだろうか。「古書現世」に入り、2冊ほど買って、しばし立ち話。「丸三文庫」に移動すると、こちらはもう店を閉じている。すっかり暗くなった街を歩き、都電で鬼子母神前に出て、「古書往来座」。坪内さんの本が何冊か並んでいて、探せばどこかにあるはずだけど、買っておく。紀伊国屋書店の紙袋に入りきらず、手で持って駅に向かう。

 池袋東武の地下、いつのまにか小洒落た感じにリニューアルされている。ここは友人のFさんが好きな日本酒(〆張鶴)が買える店だから、時折立ち寄っていた。今でも〆張鶴はあるだろうか。店頭には天狗舞と、白牡丹の試飲をやっている――え、白牡丹だ。白牡丹は郷里の酒で、その酒蔵の煙突を眺めながらよく自転車を漕いでいた。あまり広島以外で見かけることはないけれど、漱石が愛した酒ということで、「コクテイル書房」では飲むことができる。通常の純米酒の外に、中汲みが試飲できるようになっている。つい「昔のままの、ごく普通の酒蔵であって欲しい」と無責任なことを思い浮かべてしまって、勝手に申し訳ない気持ちになり、中汲みの5合瓶を手に取る。〆張鶴も変わらず置かれていたので、これも一緒に買っておく。19時半に家にたどり着き、おでんをツマミに晩酌。知人がネットで取り寄せた、清澄白河「美好」のおでんだねも入っている。ちょっと美味しい日本酒と、取り寄せたおでんだねで晩酌しているせいか、「大人になったのう」と知人がつぶやくように言う。今年でお互い39歳になる。