2月12日

 日付が変わったころに目が覚めてしまう。ケータイをぽちぽちやっているうちにまた眠れるだろうと思ったのだが、昨日の取材のことが思い出されてしまって、一向に眠れなかった。取材したお店は、今は基本的に臨時休業中のお店だ。前日までに予約があれば、18時から20時まで営業しているという。県独自の緊急事態宣言が解除されれば、また営業を再開すると言っていたから、来月くればお店に立ち寄ることができて、話を聞くこともできるかもしれない。でも、スナックのように営業しているところにお邪魔することには、やっぱり不安がある。どうしようかと考えているうちに明け方になり、芸人のラジオを聴きながら目を瞑っていると、2時間くらいだけ眠ることができた。

 今日は旧正月だ。朝7時半にホテルを出て、界隈を歩く。一昨日飲み歩いたとき、明後日は旧正月ですけどお店は休みになりますかと尋ねてみると、「今はもう、旧正月に休みになるのは南のほうだけ、糸満とかあっちじゃない?」と言われていたけれど、学校や会社が休みになるわけでもなく、ランドセルをしょったこどもたちが登校していく。公設市場やお餅屋さんなど、行事に関係するお店には休業の貼り紙がある。市場の組合長のAさんが見回りしているところに出くわす。8時になると、公設市場の跡地からラジオ体操が流れてくる。ホテルに戻って原稿を書いたのち、昼前にもう一度外に出る。取材させてもらいたいと思っていたお店――いつもは7時過ぎには開いているのに、今朝はシャッターが降りていた――を通りかかると、開店作業をしているところだ。今日はお休みかと思っていましたと伝えると、「今日は朝からお仏壇のことやってたから」と店主が笑う。「昨日も夜11時ごろまで準備して、朝3時には起きて、ずっと並べよった」と。

 昼は「赤とんぼ」のタコライスと、「Jef」でOKINAWAフィッシュアンドチップスを買って、ホテルで平らげる。「チップス」はサッポロポテトのバーベキュー味のように網目状になっている。「フィッシュ」のほうは上間の天ぷらだ。15時半にホテルを出る。ホテルの近くの工事現場では、作業員の若者たちが休憩している。紙袋に詰まった天ぷらを、皆でツマんでいる。「これ、全部サカナじゃない?」とひとりが言うと、別の誰かが「いや、芋と魚が入ってる」と言う。Uさんのお店に立ち寄り、椅子を出してもらってしばらく話す。頻繁には足を運びづらくなっている今、自分に取材が可能なのだろうか――一昨日からずっとそんなことを考えて、界隈を歩いていた。頻繁に足を運ばないとなると、「ここに取材させてもらいたい」と思いついてから、「こういう連載をしてるんですけど……」と打診して、引き受けてもらって、話を聞く。それに、これだけ臨時休業のお店が増えているなかで、どんなお店に取材して、どんな記事を書くのがベストなのだろう。なんにせよ芝居がかった振る舞いで取材したい相手に近づいていくのだから、もっとうちなーぐちも使ってみながら、コミュニティに入り込んで、次の取材相手を紹介してもらいながら取材を続けたほうがよいのだろうか――。

「そんなふうに取材する人は他にいくらだっているんだから、橋本さんがやらなくたっていいんじゃないですか」とUさんが言う。「今この場所がどうなっているのか、書かれないままだとなかったことになってしまうし、それがいつのことだったかも忘れられてしまうから、普通に歩いているだけではわからないことを、書き続けて欲しいです」と。ここ数日、くよくよした気持ちになっていたけれど、Uさんの言葉に背中を押される。『市場界隈』のときからずっと、「よそものである自分に取材なんてできるのか」「取材することに意味があるのか」と心が折れそうになるたびに、Uさんに話を聞いてもらって、背中を押されてきた。那覇に友人がいて、ほんとうによかった。

 気づけば17時を過ぎている。酒場で注文できるのは2時間だけなので、今日はタクシーで安里に向かう。おでんの「T」に入ると、今日はわりと賑わっている。後ろのテーブル席から小さな声で言葉を交わしているのが聴こえてくる。おそらく関西からやってきたのだろう。泡盛(残波の白)のボトルを飲み干して、新しいボトルを入れてから「U」に流れると、こちらもそこそこ賑わっている。「ヤーウェ」というフレーズをやたらと連発するグループが大声で話しているのが気にかかりつつ、泡盛(白百合)を2合飲んだ。帰りに隣の酒場に立ち寄り、オリオンビールを買って、ゴン太を眺める。お店のお母さんが、「ほんとに、不公平よ」と不満を漏らす。栄町にある酒場は、20時までの短縮営業にすればお金がもらえるのに、うちにはまったくもらえない、と。缶ビールを飲みながら、公設市場まで歩く。昨日、写真家のTさんから「あのあたりに20時過ぎても営業してる飲み屋があって、そこに酒飲みが集まってる」という噂を聞いていた。そこに入る気はなかったものの、ほんとにそんなお店があるだろうかと界隈を彷徨ってみたものの、界隈の酒場はどこも閉店作業に入っている。

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