3月6日

 5時過ぎに目を覚ます。完全に二日酔いだ。そして完全に記憶が途切れている。こんなふうに二日酔いになるのは、ほんとうに一年に数日だけなので、ぐったりした気持ち。何度か体を起こして水を飲みながら、ケータイをぽちぽちやっていると、『ヒカルの碁』が読めるアプリの広告が流れてくる。その広告でダイジェストされていた『ヒカルの碁』を読んでいるうちに、読み返したくなり、アプリをダウンロードし、課金しながら読み始める。8時過ぎ、ホテルの向かいのファミリーマートに出かけ、赤いきつねとオレンジジュースを買ってくる。やらなきゃいけない仕事が溜まっているのに、ずっと『ヒカルの碁』を読んでしまう。昼、シャワーを浴びてホテルを出て、界隈を歩く。お昼は「赤とんぼ」のタコライス(中)を買ってきて、ホテルで平らげる。

 16時にアパートを出て、界隈を歩く。まだ酒が残っている。アーケードを抜け、「言事堂」まで足を伸ばすと、並びの建物を写真に収めている人の姿が目に留まる。その建物には「若松薬品」と書かれていた。一体なんだろうと思いつつ、「言事堂」の棚を眺めていると、「若松薬品エピローグ」というチラシを見かけた。さきほど見かけた建物は、もともと薬品問屋の倉庫だったのだけれども、2010年に閉店したあとはアトリエとして引き継がれたのだという。しかし、建物の老朽化のためにアトリエもクローズすることになり、最後の展覧会が開催されているのだそうだ。せっかくなので、展示を観に行く。眺めていると、たしか『市場界隈』を出版したときに取材してくれたT社の記者の方が、アトリエの方に話を聞いているのが聴こえてくる。ああ、記事になるのか――と思いつつ、展示と建物を観る。記者の方は短く話を聞くと、帰ってゆく。ぼくは偶然通りかかっただけだけれども、きっとこの展示を(いや、このアトリエや、ここをアトリエとして使われてきた作家の方たちのことを)すでに知っていて、それで取材にきたのだと思うと、やっぱりその土地に住んでいる人にはかなわないなあという気持ちになる。

 アトリエをあとにして、今月こそ取材させてもらいたいと思っているお店に立ち寄る。ちょうど閉店作業をされているところだったので、少し談笑し、「それで、前にもお願いした、取材のことなんですけど」と切り出すと、ああ、今週はちょっと忙しいね、と言われてしまう。15日までに納品しないといけない注文があって、それが終わるまではむずかしいよ、と。すでに取材済みのお店は1件あるけれど、そのお店のことは4月に掲載したいと思っている。では、3月の記事をどうするか――。と、さきほどのアトリエに引き返す。おそらくさきほど受けていた取材は、そんなに家族と会社の歴史に深く立ち入ったものではないはずだと踏んで、新報で連載していることを伝えて、明日、話を聞かせてもらえませんかとお願いしてみると、二つ返事で引き受けてもらえてホッとする。

 18時、「東大」を目指して安里まで歩く。日が暮れてもまだ二日酔いの余韻を引きずっているけれど、明日以降「東大」は定休日なので、今日のうちにとやってきたのだ。市場界隈でちらほら観光客を見かけるようになりつつあるので、「東大」も賑わいが戻っているかと思ったけれど、開けっ放しの扉から店内を覗くとお客さんは2組だけだ。まずはゴーヤースライスと、ミミガーとマメの刺身を注文し、泡盛を飲んだ。最後におでんを頼んで、店をあとにする。今日はこれぐらいで帰ろう、その前にゴン太をひと目見てからと歩いていると、「うりずん」のSさんとばったり出くわし、そのまま流れるように「うりずん」のカウンターに座る。ただし二日酔いなので、ビールを1杯と、「胃腸にいい」とメニューに書かれてあったニガナの白和えだけ平げ、「今日は二日酔いなので、また明日か明後日きます」と伝えてお店をあとにする。21時にはホテルのベッドに寝転がり、『ヒカルの碁』を読み終えた。