3月28日

 5時に目を覚まし、スカイライナーで成田空港へ。緊急事態宣言が取り下げられた途端に、やっぱり空港の雰囲気は変わる。どこか弛緩している。メガネをゴーグルにつけかえ、ジェットスター303便に乗り込んだ。前から2列目の通路側の席だから、乗り込んでくる乗客たちの会話がずっと聴こえている。「わー、新幹線みたいじゃん」と言っていた若者は、これが初めての飛行機だったのだろうか。前の座席のカップルはずっと顎マスクだ。隣の乗客も、飛行機が離陸するとマスクを外し、スナック菓子を食べ始める。それを咎めたくてこうして綴っているというのではなく、不安にならないのだろうかと不思議に思う。お腹が減っていたから、サンドウィッチやおにぎりを買って飛行機に乗って、機内で食べるというのはわかる。でも、スナック菓子となると、マスクを外してしばらく過ごすことになるわけで、もしも感染者が機内にいたらと不安にならないだろうか。

 到着ロビーを出ると、学校名を書いたボードを掲げている人をちらほら見かけた。ゆいレールで県庁前に出て、国際通りを歩く。観光客の姿が戻りつつある。まずはホテルにチェックイン。インターネットで注文しておいた残波の古酒(1999年物)が届いていた。部屋に荷物を置いて、オリオンビールのTシャツに着替え、街に出る。一昨日付のRK新報で取り上げた「旧・WKMT薬品」の前を通りかかってみると、話を聞かせてくれたT.Aさんが出てきて挨拶してくれる。ぐるぐる歩き、Uさんの店に立ち寄る。だいぶ観光客が戻ってきてる感じがしますねとぼくが話すと、先週はもっとすごい人だったのだと教えてくれる。そして、新報の原稿について、最後のところがすごくよかったと感想を伝えてくれる。その最後の箇所は、取材したT.Aさんからの依頼で加筆した部分だ。取材のとき、Tさんの言葉を引き出したくて、自分が今感じていることを少し話していたのだけれども、原稿ではその部分は省いていたので、「あのときの橋本さんの言葉も記事に書いて欲しい」と言われ、最後に加筆したのだった。

 「赤とんぼ」でタコライス(中)を買って、ホテルで平らげたのち、缶ビール片手に「旧・WKMT薬品」へ。小雨が降る中、ぱらぱらと人だかりができている。そこはかつて、医薬品の卸・小売りをおこなう「WKMT薬品」の倉庫だった場所で、2010年に閉店したあとは孫のAさんが共同アトリエを構えていた。だが、老朽化のためこの春でアトリエもクローズすることになり、今日は建物の前でうちなーぐち演劇集団によるパフォーマンスが披露される。その企画は、建物の外観を記憶に留めてもらいたいという思いから企画されたものだとAさんは語っていた。ぼくはうちなーぐちはほとんどわからず、芝居の内容はおぼろげにしかわからなかったけれど、その様子を見届ける。偶然通りかかった人や、車も少しスピードを緩めて、その様子を見つめていた。最後に歌われた「十九の春」WKMT薬品バージョンがとても印象的だった。最後の歌詞を引いておく。

 

 那覇のまちも変わりゆき

 世代が変われば店も変わり

 新たな時代に夢を見て

 ホケキョホケキョとないている 

 

 パフォーマンスを見届けたあと、「The Times They Are A-Changin’」を聴きながら「ジュンク堂書店」(那覇店)に向かう。15時からU.Yさんのトークイベントがあると昨日知ったので、聴く。聞き手を務めるアナウンサーの方が、「この本を読むと、とても丁寧に丁寧に暮らしている」といった感じで話を向けると、会場に訪れていた家族に「結構雑だよね?」と話を向ける。あるいは、とても丁寧に言葉を拾われている、と話を向けられると、「いや、拾えているのはほんの一部で、たくさんたくさん漏れている」と返す。その言葉が残る。トークは45分ほどで終わり、質疑応答に入る。客席の誰かが本の感想を伝えるたびに、会場から拍手が起こる。トークが終わったあと、すぐ近くを通られたので、ご挨拶する。書評を書いたあとで、編集者づてにお礼のメッセージをいただいていたのに、そのままになっていた。「全国紙であの本を取り上げられるのは大変だったと思います」と言われ、それは『海をあげる』だけではなく、それと『地元を生きる』を2冊セットで書評する、ということをおっしゃっていたのだろう。でも、特に大変だなんてことはなく、リストに含まれていない本ばかり書評している。

 16時過ぎ、市場界隈を歩き、取材したいと思っている古着屋さんに向かう。今回は半袖の服ばかり持ってきていたけれど、半袖で過ごすにはまだ寒く、上着が欲しいと思っていたので、アディダスのしゃかしゃかした素材のジャージを買う。会計を済ませたあとに取材依頼をすると、今はオーナーが不在だから、インスタのDMでメッセージを送ってもらえますかと告げられる。買ったジャージをその場で羽織り、「パーラー小やじ」で生ビール。2杯目からは日本酒を飲んだ。「大きいです」と書かれていた赤魚を頼んで、ちびちびツマんだ。日本酒を3杯飲んで、栄町まで歩く。どこもわりと賑わっているので入らず、駅前の屋台で沖縄そばを啜り、牧志まで引き返す。

 路地を抜けたところで、ふと視線を上げると、正面にある酒場で同業者の方が飲んでいるのが見えて、思わず声をかける。アディダスのジャージ姿であるのを見て、「すごい、地元の人みたいになってるよ」と言われる。それはどういう意味で受け取ればいいのだろうかと思いながらも、椅子に座る。その場にいた他のおふたりも、広い意味で同業者だ。月イチ連載を持っているという点も同じで、月イチでルポルタージュの連載をするのは大変だという話になる。もちろん簡単だと思ったことはないけれど、それを苦だとは感じたことがなかったので、ぼんやり聴きながらハイボールを飲んでいると、あるおひとりから「あんまり大変じゃなさそうな感じだね」と言われてハッとする。何杯かハイボールを飲んでいるあいだに、「この人はこのへんのことだけに詳しいから」と3回言われ、本当ならムッとするべきところなのかもしれないなと思いながらも、その通りだなと納得する。