9月15日

 6時に目を覚ます。9時半に散策に出て、今日ものうれんプラザをのぞく。もやし専門店の方に声をかけ、「このあたりで、ここのお店からもやしを取っているお店ってありますか?」と尋ねる。専門店のもやしは、スーパーのもやしとどれぐらい違っているのか。ホテル暮らしだと確かめようがないので、専門店でもやしを仕入れているところで食べてみようと思ったのだ。ああ、いくつかあるんだけど、お昼にならないと開かないから――そう言いながらお店の方はビニール袋を取り出し、そこにもやしを詰めて差し出してくれる。

 「ホテルでも、魔法瓶なんかがあるでしょう? あれでね、お湯を沸かして、そのお湯にもやしをしばらく浸けてね。そうすると、ちょっともやしの色が変わってくるから、そこでお湯からあげて、ナムルを作ってみて。ナムルじゃなくても、塩昆布あるでしょう、あれで味つけるのでもいいから。男の人でもね、うちのもやしでナムルを作ってみて、それから買いにくるようになったって人も意外と多いのよ」。いただくのは申し訳ないから、お金払いますと伝えても、お店の人は「いいのよ、美味しかったらまた買いに来て」というので、さっそく今日食べてみますと伝えて、のうれんプラザをあとにする。

 時計を見ると10時近くになっている。むつみ橋の「かどや」で沖縄そばでもと思って中を覗くと、ごめんなさい、10時からなんですと店員さんが教えてくれる。店員さんは軒先だけでなく、交差点のあたりまで掃除をしている。それならばとスターバックスコーヒーでアイスコーヒーとサンドウィッチを買って、宿に引き返す。しばらく原稿を書いたあと、13時半に再び外に出る。まずは「かどや」に入り、ソーキそばとおいなりさんを注文する。3枚肉もおまけで入れときましょうねとおまけしてくれた。上品なとんこつラーメンのような味のスープ。朝のことを店員さんはおぼえててくれて、もう今日は見えないかな、まだ営業前で申し訳なかったなと思っていたところだと教えてくれた。

 ジュンク堂書店をのぞいたのち、界隈を散策する。以前「もしよかったらいつかお話を」と手紙を渡していたお店、最近はずっとシャッターが降りていたのだが、少しだけシャッターが上がっていて、軒先を掃いている人がいた。「××屋さんですか?」と声をかけ、少し話す。あの、以前お手紙を渡した橋本というものです、このさき緊急事態宣言があけてお店が再開されるときがあったら、いつかお話をとお声がけすると、ううん、うちはあんまりお話しするのが得意じゃないから、申し訳ないけどと言われ、そうでしたか失礼しましたと引き下がる。

 ホテルで少し休んだあと、16時にまた散策に出る。先月の回で話を聞かせてもらった「M商店」の前を通りかかると、あ、お帰りなさいと声をかけられる。お客さんからも「記事読んだよ」と声を何度か声をかけられたけど、その店員さんが記事をしったのは掲載日以降だったので、紙面を読めなかったと残念そうに言う。あとでコピーしてもってきますよと伝えようかとも思ったけど、もしかしたら話を聞かせてもらった店主の方が気恥ずかしくて掲載日を伝えていなかった可能性もあるなと思って、そうだったんですね、僕も新聞が出る日にこっちにいれなかったから、実物は手に取ってないんですと答える。そうだよね、8月はこれてなかったもんねと話していたところにお客さんがやってきたので、会釈をしてそっと立ち去る。

 ぐるぐる歩いていると、今度は市場界隈で話を聞かせてもらった「Y屋パン」の方と出くわす。あら、あなた、今月はこれたの?と声をかけられる。先月は「M商店」の記事が出てたけど、来月は休載ですって出てたから、ああ、今この状況だとこっちにこれないのかなと思ってたのよ、毎回楽しみに読んでるんだけど、沖縄のことをすごくよくかけてる、頑張ってね、と励ましの言葉をいただく。取材させてもらった方に、その方のことを書いた記事を褒めてもらえるのも嬉しいことだけど、その方がまた別の記事も読んでくれているというのは、また別種の嬉しさがある。

 大阪で駄目にしてしまったサコッシュ、ないとやっぱり不便だからと、新都心まで買いに行くことにする。タクシーを拾って、メインプレイスへ。きっとどこかでサコッシュがごそっとまとめって並んでいるだろうと思っていたのに、好みのものは見当たらず、ごてごてとした装飾のあるものや、ポシェットみたいなものばかり。服屋を何軒か冷やかして、そうだ取材を受けるときに着る服を買っておかないととぼんやり考えながら、「球陽堂書店」をのぞき、メインプレイスをあとにする。

 330号線を南下し、安里へ。まあきっと休業中だろうなと思いつつ、路地に入ると、若草色の暖簾が風に揺れているのが目に止まり、ずんずん進んで入店する。店の入り口に立つと、店員のHさんがこちらに気づき、「橋本さん!お久しぶりです」とふかぶかとお辞儀をして出迎えてくれて、その姿に妙に感銘を受ける。お酒は出せないんですけど、大丈夫ですかと尋ねられて、だいじょうぶですだいじょうぶですとカウンター席の端っこに座る。「U」に入るのは、いつぶりだろう。ノンアルコールビールを待ちながら、それにしても、さっきはまるで躊躇しなかったなと、わがことながら不思議に思う。東京で過ごしてるときも、飲食店を利用するのはほとんどがテイクアウトになっていて、店内で過ごすということは滅多になくなっている。テイクアウトのために入店するにしても、店内で過ごしているお客さんがどんな感じで過ごしているのかと、ちょっと様子を伺ってから入ることがほとんどだ。でも、さっきはほとんど反射的に店に入った。そんなことはずいぶん久しぶりだ。

 アンダンスーとクーブイリチーを注文して、貸切のカウンターでぼんやり過ごす。酒場で過ごすときって、いつも何してたんだっけか。いや、そんなふうに考えてみるまでもなく、基本的には今抱えている原稿のことを考えていたはずなのだけれども、そういう時間からずっと遠ざかっていた上に、突然思いがけずカウンターに座ったものだから、戸惑ってしまう。それに、アルコールが入っていないとグビグビ飲んでしまって、あっという間にノンアルコールビールで腹が膨らんでしまう。小一時間でお店をあとにして、隣の酒屋さんに入り、缶ビールを買う。「あれ、これたんだ?」とお店のお母さん。そうなんです、ようやくちょっと数字が落ち着いてきたのと、飛行機もちょっと空席が増えてきたので、と答える。でも、どうなるかね。また連休がくるから、どっと増えるかもわからんね。観光団が増えたら怖いから、気をつけてね。そう声をかけられて、しばらくゴン太を見つめる。ゴン太は眉毛が少し反応したぐらいで、ずっと伏せたままだ。コンビニでラー油と味の素を買って帰り、どうにかもやしのナムルを作ってみる(マスク入れに使っていたジップロックが役立った)。もやしがしゃっきしゃきで、スーパーで買うのとはまるで別物で、衝撃を受ける。