9月19日

 4時過ぎ、嫌な夢で目を覚ます。ときどき見る、喉にいがいがした感触があって、ぺっと唾を吐き出してみると、喉に詰まっていたガラス片がじゃりじゃりと出てくる、という夢。きっと喉風邪をひきかけたりしたときに見るのだろうけれど、どうしてこの夢を繰り返し見るのだろうかと不思議になる。口の中にガラス片がじゃりじゃり入っている感触はリアルに残る。今日の夢ではなぜかオードーリーと一緒にいて、若林がこちらの異変にうっすら気づき、うわ、おい、まじかよ、と困った様子で過ごしていた。

 もう一度眠りにつき、8時近くになって起き出す。台風一過、よく晴れている。洗濯機をまわす。たまごかけごはんを平げ、書評する本を熟読する。お昼時のニュースで、連休で人手が増えており、羽田空港では93パーセントも増えたと報じている。おそろしい。いま、東京の新規感染者がぐんぐん減っているけれど、自分が行動している範囲ではそんなに減少する要素が見えないだけに、またすぐに急増するのではないかと思ってしまう。そうするとまた移動しづらい状況が生まれるだろうから、10月前半のうちに沖縄に行って、年内掲載分の取材は終えておいたほうがよさそうだ。できれば水納島にも行って、書籍化に向けて写真をもういくらか撮っておきたいところ。

 昼、知人に鯖缶とトマト缶のパスタを作ってもらって平らげる。天気が良く、どこか散歩に行きたそうにしているので、14時半から出かけようと約束して、読書を続ける。14時から始まった『ザ・ノンフィクション』、先週からの続き物のようで、知人は番組を見始める。癌で余命宣告を受けたパチスロライターを追った回の後編だ。死ぬ瞬間まで撮って欲しいと(たしか)言っていたところから、癌が進行し、歩くのも苦しそうな取材対象を前に、カメラを持つ男が、なにかできることはあるかと声をかける。いや、何もないからと取材対象は言う(「なにか手助けしてほしいときは自分からお願いする」と言われていたと、この場面のナレーションで補足されてもいる)。それはそうだろう。医者でもない取材者ができるのは、ただじっと見届けることだ。結局、それ以降はあまり密着した映像もなく、最期の時を迎える。

 番組が終わったところで、知人と散歩に出る。ほんとうにいい天気だ。大学1年生の時、あれはミャンマー史の講義だったか、講師の先生が「今日は一年のうちでも片手で数えられるくらいしかない、いい天気です」と、ゴールデンウィークが明けたころに言っていたことを思い出す。「皆さんはまだ若いからわからないかもしれないけど、こういう日はほんとうにかけがえがないんです」と、講師の先生は言っていた。今は少しはわかるような気がする。よく晴れているのだけれども、暑いと感じることはなくて、かといって風が「寒い」というほどでもなく、過ごしやすい天候だ。東大前を通り過ぎ、数日前に営業再開のツイートをしていた「古書ほうろう」へ行ってみるも、今日は日曜なので軒先の無人販売しかやっていなかった。軒先の本を眺めていると、Mさんが出てきて軒先の写真を撮影されていたのでご挨拶。『東京の古本屋』の企画を始めたとき、いつか取材させてくださいと言ったものの、コロナ禍でいろいろ状況が動いてそのままになっていたので、お詫びする。

 ミニストップでぼくはキリンラガーを、知人はスーパードライを買って、不忍池に出る。その都度マスクを外したりつけたりしながら、ビールを飲む。ボート屋は大繁盛だ。ベンチや石段に腰掛けて過ごしている人も大勢いる。知人がやけに座っている人を見ているなと思っていたら、「皆マルエフ飲んでる」とつぶやく。新しく出たアサヒのビール、朝のニュースで「人気殺到で品切れ状態に」とやっていて(アサヒは少し前に出た生ビール缶でも同じようなことになっていたけど、やっぱり生産数をある程度絞ってそういう反響を呼んだりプレミア感を出したりという狙いがあるのだろうか)、ミニストップには並んでいなかったのに、たしかに公園内でビールを飲んでいる人たちはことごとくマルエフを飲んでいる。上野駅不忍池のあいだにあるコンビニだと、たくさん売っているんだろうか。

 トイレの脇にある日陰で、上裸の若者がペーパータオルを手に体を拭いている。その近くで、スカーフをかぶった女性がベビーカーを押していて、ベビーカーに乗せられたこどもは目を丸くしてその若者を見ている。このトイレの近くで、いつも酒盛りをしているヨレヨレの人たちがいたのだけれど、その姿は消えていて、宴会禁止の貼り紙があった。池にそってぐるりと歩くと、遊具の向こうで、おそらく海外からやってきたのであろう若者たちがビールの箱を囲むように、楽しそうに語らっている。延々と続くコロナ禍で、場合によっては「外国人だ」と白い目を向けられることもあるのかもしれず、こんな天気のいい日くらい同郷の人たちと公園に集まって語らいたくなるのだろう。

 ぐるりと歩き、スーパーで買い物を済ませて帰宅するともう17時だ。しばらく読書の続きをして、19時半からキッチンで焼肉をする。沖縄でお土産にと注文したアグー豚の豚トロがメイン。取材したいなと思っていたお店で、おすすめを尋ねて購入したものだけど、特売だったので1キロで1600円ほどだった。500グラムずつ2パックに分かれて包装されており、1個だけ解答して食べ始めたものの、近所の肉屋で牛タン200グラムと赤身肉200グラムも買っていたので、1パック食べきるまえにお腹がいっぱいになってしまう。満腹になったせいか、ビール3杯だけでもうお酒も飲めなくなり、早めに布団に入る。