10月6日

 7時過ぎに目を覚ます。コーヒーを淹れて、舞台『c』のドキュメントを書き始める。知人は夕方まで在宅で仕事をしている。そうだ、と思い立ち、11時に自転車で団子坂をくだり、よみせ通りにある花屋へ。変わった花が並んでいる、こじんまりした、わりと最近オープンした花屋。トムピアーズという洋ギクを1輪(800円!)買って帰り、適当な長さに切り、知人が作業している机に飾る。それから、春日駅近くのケーキ屋のことを知人がしばらく前からちょくちょく話題に上げていたので、もう一度自転車こいでそのケーキ屋さんに行き、柿のタルトとショートケーキを買っておく。

 12時過ぎ、知人の作る鯖缶とトマト缶のパスタを食す。ビールも飲んだ。ので、当然午後は眠くなり、軽く昼寝をしてからドキュメントのことをぼんやり考えるも、あまり捗らず。知人は夕方頃に公演の現場に出かけて行った。17時過ぎにぼくも出かける。郵便受けをのぞくと『群像』が届いていた。連載は終わったものの、書籍化の作業があるから送ってくれたのだろうか。買うのに。それを持って千代田線で御茶ノ水に出て、「丸善」を覗く。『東京の古本屋』は読書論の棚に置かれている。『BRUTUS』を手にしてレジに向かうと、商品に似たものは袋に入れるか、カバーをかけるなどしてからご入店くださいと注意される(鞄に入れずに群像だけ持ち歩いていた)。サコッシュは身につけていたので、サコッシュに入れようかとも思ったけれど、それこそ万引き犯みたいに見えそうだから、堂々と手に持ってレジに向かい、袋も購入したのだった。

 もやもやしながら中央線に乗り、高円寺へ。もう17時過ぎだから、ひょっとしたら帰宅ラッシュの時間帯に入っているのではと怯えていたけれど――そしてそれなりに混んではいたけれど――隣の乗客と荷物がぶつかるほどの混み具合にはならずに済んでほっとする。18時ちょうどに「C書房」にたどり着いてみると、先客がふたり。今はカウンター席が4席に減らされていて、一番奥にひとり、ひとつ空けてまたひとり、座っている。入り口に近いカウンターの端っこに座ると、ああそうか、入り口に近い方がいいんですねとマスターのKさんが言う。いちばん奥に座っていたお客さんは『東京の古本屋』を読んでくださっていたらしく、「面白かったです」と言ってくれる。そしてKさんからも、「“監督”や(原稿に登場する)Nさんにまで送ってくださったみたいで、ありがとうございます」とお礼を言われる。

 ハートランドを注文して、マスクを外して飲んで、またマスクをつける。横並びに座っているお客さんたちはマスクを外しているから、もしかしたら感じが悪くなっているかもしれない(隣のお客さんはわりとしゃべり続けている)。ガラス戸の向こうを行き交う人を眺めながら飲む。こうしてガラス張りのお店だと、やっぱりマスクをつけて飲むしかないよなあという気が余計にしてくる。もしも自分がこの街に暮らしていて、緊急事態宣言があけてもまだ不安に苛まれながら日々暮らしていたとして、酒場でマスクを外した客が楽しそうに談笑している風景を目にしたら、酒飲み=悪だと思ってしまうのではないか。そう考えると、マスクを外せないなと思う。――と、それはほんとうだろうか? 「マスクなしで屋内のスペースで談笑するのは危険だ」という自分の信仰を正当化するのに、架空の誰かを作り上げているだけではないのか?

 ビールを飲み終えると、白牡丹を常温で頼んだ。実家の隣町で作られているお酒。「派手な徳利にしますか、それとも渋い徳利にしますか」と尋ねられ、いつもなら渋い方でと答えるところだけれども、久しぶりに外で飲んでいると晴れやかな気持ちになるもので、派手なほうでと答える。ほんとうに派手な徳利が出てくる。白牡丹を2杯飲んで、店をあとにする。御茶ノ水で乗り換えるときに成城石井に立ち寄り、いくつかツマミを買って帰宅。少し早く帰っていた知人と乾杯し、ひとしきりツマんだのち、お昼に買っておいたケーキで誕生日を祝う。