10月12日

 3時過ぎに目を覚ます。これでは早過ぎると二度寝、三度寝して、6時過ぎに布団から這い出す。午前中は荷造りをしつつ、明日からしばらく家を空けられるように、整理整頓しておく。3食入りの焼きそばが1袋余っていたので、八百屋でもやしだけ買ってきて、焼きそばを作って平らげる。白いシャツにスチームアイロンをしっかり当てて、13時半に部屋を出る。小雨が降っている。大手町経由で神保町。たぶんこっちだよなとA6出口を出て、救世軍の前を通り過ぎる。少し歩くと、集英社が見えてくる。あれ、こっちじゃなかったっけと 動揺し、Googleマップを開いて確認すると、その少し先にS社はあるようだ。『市場界隈』のときにも取材してもらったけれど、訪れたのはその一回だけだから、頭の中の地図にあんまり入っていなかった。

 13時55分にS社の前に到着すると、編集のTさんが一階のカフェから出て来たところに遭遇し、声をかけて社屋に入る。14時から、会議室で取材を受ける。一度だけ訪れたことがあるインタビューしてくださるのは『市場界隈』のときと同じくSさんで、この本についてSさんにインタビューを受けるのは少し緊張する。会議室に案内されると、ゆったりとした空間にソファーとテーブルがあり、もとから十分に距離が取れる造りになっているのに加えて、テーブルにはアクリル板が用意されている。おお、と思って眺めていると、話している様子も撮影するので、マスクを外して話してくださって大丈夫ですと言われ、どぎまぎする。知人以外と、マスクを外してしゃべるのは1年半ぶりだ。なんだかとても悪いことをしているように思ってしまって、最初のうちはもごもごする。ただ、Sさんとは面識があり、この本に書かれている風景をきっとご存知だろうとこちらがわかっていることもあって、キャッチャーミットがどこに構えられているのか掴みやすく、するするしゃべっているうちに取材が終わる。

 15時過ぎ、Tさんと一緒に学士会館の喫茶室へ。わりと空いていて安心だ。マスクを外して会話をしている人もいるけれど、ほとんどの人はマスクをつけて過ごしている。ぼくはカフェラテを、Tさんはショートケーキとホットコーヒーを注文。『東京の古本屋』が東京堂書店で3週連続1位になっていることについて話す。Tさんも言っていたけれど、新刊台と、入り口近くの本の雑誌社の棚に置いてもらっているとはいえ、そんなにドーンとたくさん並んでいるわけでもないだけに、3週連続で1位になるとは想像していなかった。Tさんと別れたあと、「1位」のところに本が置かれているのを記念に撮影したのち、「東京堂書店」と「三省堂書店」をはしごして、委員会に向けて気になる本を何冊か購入する。

 !6時45分に大手町に出て、YMUR新聞社。今日は久しぶりにオンラインではなく、対面で委員会が開催されることになった。到着してみると、今日は2番目で、先にKさんがいらしている。「いやあ、お久しぶりですね」と挨拶してくださって、ふわふわする。委員の方は半数くらいは大学の先生だけれども、(これは自分の仕事を卑下して言っているのではなくて、もちろんはっきり自負があるのだけれど、その上でもやはり)自分は野良犬のようなものだ(そして野良犬として矜持を持って過ごしている)。だから、「うわ、なんか野良犬がいるじゃん」と思われたって仕方がないなと思っているのだけれど、とてもナイスに接してくださる方が多く、「緊急事態宣言もあけて、また取材に出かけられるようになりましたか?」とKさんも聞いてくださって、なんだかびっくりする。

 座席は指定席ではなく、毎回変わるのだけれども、今回は右隣がSさんだった。普段の委員会だと、ぼくは書評に関連すること以外はほとんど言葉に出せずに終わることが多いのだけれども、今日は久しぶりのリアル開催で浮かれていたのか、「対談、読みました」と声をかけてしまう。取材以外でこんなふうに誰かと会う機会もごく限られているので、あと数ヶ月で委員をやめたあとはどこでこんな会話をすることになるんだろうと、ぼんやり思う。コロナ禍になるまでは、酒場がそれだった。20時に委員会は終了。ハイヤーで送っていただいて、セブンイレブンの前で下ろしてもらう。卵と豚肉ときくらげの惣菜を買って、照明を落とした部屋でビールを飲んで、出発の準備をして、22時には床に着く。