10月16日

 7時過ぎ、洗濯物を抱えて出かける。コインランドリーで洗濯機をまわして、界隈を散策する。今日の公設市場の工事現場は、5時半から搬出作業があると書かれていただけあって、作業の音がする。8時、バイキングが再開された「金壺食堂」をのぞくと、ああ、久しぶりと声をかけられる。「最近は世の中もどんどんおかしなことになってるね」。カウンターの向こうでちまきを作りながらSさんが言う。ここには学校の先生も食べにくるそうだが、風邪で休んだだけでも「コロナなんじゃないか」と言われて、転校せざるをえなくなる子までいるのだという。

 先客が1組だけいたけれど、そのふたりがいなくなるとお店は貸し切りだ。ゆっくり食事を終えて、食器を下げ、お会計をお願いする。ちまきを1個サービスで渡してくれる。「こないだ、何年かぶりにやんばるに行ってきたよ」とSさんは言う。久しぶりに自然の中で過ごして気分がリフレッシュしたと、さっぱりした表情でSさんは言っていた。「もうちょっと落ち着いたらまた飲もうね」。そう言われて、ぜひぜひ、と答えてお店をあとにする。乾燥機を16分まわし(8分で100円、ちなみに洗濯は300円)、洗濯物を抱えて宿に戻る。

 10時にホテルをチェックアウトして、車を荷物に積み込んだあと、そうだ、何か手土産をと思い立つ。カツオの町に持っていくのも変かなとは思いつつも、「松本商店」に立ち寄り、ツマミになる鰹節を4パック買う。車に戻り、運転を始めたところで、助手席のダッシュボードに、コンタクトのケースのゴミが置かれていることに気づく。これはいつからあったんだろう。よく見ると、車内に少し汚れた箇所もある。昨日気づかなかっただけで、昨日からこうだったんだろうか。そうだとしたら、清掃がきちんと行われていなかったということで、とダッシュボードや宜野湾の「宗像堂」へ。コロナ対策で、店内には1組ずつの入場になっている。1番人気のパンを4個と、自分の明日の朝ごはん用のパンを買い求めて、西原から沖縄自動車道に入って北上する。12時過ぎには本部にたどり着き、町営市場にある「みちくさ」でアイスコーヒーを購入し、「仲宗根鮮魚店」で1000円分の刺身盛り合わせを作ってもらう。数ヶ月前には並ばずに入れた「きしもと食堂」は、すっかり行列が戻っている。「仲宗根ストアー」には「中学三年生出禁」の貼り紙があった。

 サンエーでビールを買って、宿に車を駐車して、渡久地港へ。浮き輪にからだを通したちびっこが駆け回っている。大人たちももうマスクを外して、大声で会話していて、これからこの人たちと一緒に15分間船に乗るのかと視界が暗くなる。船内でもマスクを外したままの旅行客もちらほらいるので、デッキに立ったまま過ごす。水納島に到着すると、船着場までYさんが迎えにきてくれていたので、軽トラに乗せてもらって宿へ。まずはお土産を手渡し、テーブルでビールを飲みながら刺身を食べさせてもらう。洗濯機が新しくなってますねとYさんに言うと、「気づきました?」と笑う。宿で使う備品の一部も、申請すれば補助が出るものがあるらしく、壊れていた洗濯機を買い換えようと申し込んだのだという。刺身の盛り合わせは結構な量で、なかなか食べ終わらず、ビールは2本飲んだ。

 水納島を訪れるのは7月上旬以来だ。渡航するたびに検査を受けているとはいえ、夏の混雑期には飛行機に乗る気になれなかった。那覇には9月にもきていたけれど、まだ島を訪れるには早いのではと躊躇していた。Yさんに、ここ3ヶ月の話をぽつぽつ聞かせてもらう。Yさんはクーラーボックスの小さいやつを用意してくれて、そこに氷を入れてくれたので、缶ビール2本を携えてビーチに出る。待合所のところに、「水納島内(ビーチ外)の散策を自粛下さいますようお願いいたします」と貼り紙が出ていた。ほとんどの観光客は、島に到着するとマスクなしで過ごしているから、こうした貼り紙が出るのもやむをえないことだと思う。

 ビーチの監視台にはTさんの姿があった。お久しぶりですとご挨拶。しばらく突堤から海を眺めたのち、イナトの側に行ってみる。そこには誰の姿もなく、静かだ。切り裂くような風の音が聴こえてくる。明日は北風が強く吹く予報が出ており、遮るものがないここ水納島にはかなり強い風が吹き荒れる。「もう夏は今日で終わり」と、さっきYさんも言っていた。4月に滞在したときは、ちょうど冬の季節風である北風が終わる頃だった。あれから半年たって、また北風の季節がやってくる。

 島の西に延びる道には草が生い茂っており、ハブがいるかもと思うと進むのが躊躇われ、牛舎とプライベートビーチを眺めるのは諦める。宿に引き返し、自動販売機でアイスコーヒーを買って一休み。洗濯したシーツを干していたYさんは、「ああ、あっち側はまだ草刈りできてないんですよ。井戸のほうは、こないだ船が出なかった日にユンボで綺麗にしたんですけどね」と教えてくれたので、井戸まで歩く。井戸と御願所を巡り、手を合わせる。水納島の歴史と今のこと、自分に書ける範囲のことは書かせていただきましたと心の中で念じる。途中でUさん夫妻のご自宅にも立ち寄り、鰹節とパンを手渡すと、「ああ、おいしいところのパン」と喜んでくださる。

 16時45分、Yさんに船着場まで送ってもらう。ビーチで片付けをしていたTさんにもお土産を手渡して、船に乗りこんだ。往路より復路のほうがマスクをつけている乗客が多いのはどういうことだろう。往路はもう、「今からリゾートだ!」と浮かれているけれど、復路は現実に戻っているということだろうか。船が動き出すと、突堤でYさんやUさん夫妻が手を振り、いつまでもフェリーを見送ってくれていた、スーパーで惣菜を買って、宿にチェックイン。ホテルは渡久地港からもほど近い、海辺に建っている。いつもは内陸側に向いた部屋をとっているのだが、今日はなんとなく、割高なオーシャンビューな部屋を予約しておいたので、部屋から瀬底島ごしに水納島も半分ちょっと見えている。少しずつ日が暮れてゆき、夜になると、灯台の白い点滅が見えた。