10月24日

 8時過ぎに目を覚ます。朝から舞台『c』に向けたWORKのドキュメントを2回分書き上げ、メールで送信。続けて、先日の石垣島の取材のテープ起こしに取り掛かる。昼は知人の作るサバ缶とトマト缶のパスタ。今日はスープパスタみたいな仕上がり。ビールも1本飲んだ。昼下がり、立憲の選挙カーの声がする。窓から外を覗くと、すぐ近くに選挙カーを止めて、しばらく話すようだ。これは千載一遇のチャンスではと、マスクをつけ、表に出る。ずっと気になっていたのは、ホームページのどこを見ても、「なぜ政治家を志したのか?」ということが書かれていなかったことだ。政策はずらりと書かれていて、もちろん政策も大事なのだけれども、何かよくない事態が起こったときに、「この人はきちんと自分の言葉を尽くして説明してくれる人だろうか?」というのがたぶんぼくの中では大きなポイントで、それをはかるためにも、どうして政治家を志したのか、知りたかったのだ。もちろん演説中の本人に「どうして政治家を志したのか、教えてください」と言えるわけはないけれど、演説が終わったあとに声をかけて、「ツイッターとかに、そういう動画もアップしてもらえませんか」と声をかけようと思っていた。選挙カーはうちから100メートルぐらいの場所に停まっていた。うちとは反対側に停まっている。まずは様子を伺おうと、一度通り過ぎる。運転席には運転手がいて、その後ろには女性が座っている。本人はどこで演説しているんだろうと振り返って確認すると、車を降りたところに立っているのが見えた。この道路は片側一車線の道路で、歩道と車道のあいだに縁石とかがなくて、フラットな道路だ。その端に車を止めて演説しているのだから、通行人や行き交う車に向かって演説しているものだとばかり思っていた。でも、振り返ってみるとそうではなく、自動販売機に向かって声を発し続けていた。あくまで通行人ではなく、マイク越しに近所の住民にということなのだろうけれど、これは、この候補に入れてよいのだろうかと、気持ちが揺らぐ。

 14時40分、知人と一緒に家を出て、久しぶりでバー「H」。お店に入る路地の入り口にあるマンション、ここ最近は建て替え工事をやっていたのだけれども、無事に新しいマンションが建ち、1回に入っていた芋菓子の店もリニューアルオープンしていて、開店祝いのお花を近所の人たちが持ち帰っている。

 バー「H」には開店時間の8分前に到着して、開店を待つ。15時きっかりにオープンして、端っこの席に座る。ハイボールを2杯飲んだところで、すみません、何かカクテルをとお願いする。ジンフィズを作ってもらって飲んだ。飲み慣れないカクテルを注文したのは、緊急事態宣言中に偶然お邪魔したときにHさんから渡された一枚のDVDを観たからだ。そのDVDに収録されていたのは、今から30年くらい前のテレビ番組(?)で、銀座のオーセンティックなバーが紹介されていた。バーテンダーたちは皆かなりのベテランたちだ。こうして映像で見ると、シェーカーの振り方がひとりひとりまるで違っている。ただ、ほとんどの人に共通するのは、高齢でもしゃっきりした佇まいを保っているということ。バブルに向かう時代に、カクテルがもてはやされ始めた頃に、あくまでオーセンティックな店を記録しておこうと撮影されたものだろう。そのテイストは、今ではもうほとんど消えかかっているのだろう。ただ、その空気は、Hさんにも共通する。今日はHさんのシェーカーの振り方を見たくてカクテルを注文したのだけれど、ジンフィズはシェーカーを使わないカクテルだった(ただし、あとで他のお客さんもカクテルを頼んで、そこでシェーカーを振る姿を見ることができた)。こういうバーテンダーの人たちのことも、書きたい、という気持ちが浮かんでくる。それを書くには、自分が避けていることも言葉にする必要がある。ぼくは話を聞かせてもらった相手の言葉を軸に構成することで、取材したお店や相手のことを書く。つまり、描写することは避けている。それは、自分の拙さが出てしまうことや、自分の目が評価に晒されることを避けているのだろう。

 バー「H」を出て、いろんな酒を扱っている酒屋に立ち寄る。3本選んで、会計する。最初は二人がかりで対応され、ひとりはレジを打ち、もうひとりが瓶をぷちぷちで包み――とやっていたのだけれども、あとから大口の客が選び終えた瓶を帳場に行くと、その瓶を発送するための資材を探しに、ふたりともどこかに去ってゆく。おいおい、どういうことだよとブチギレそうになっていると、別の店員さんがその事態に気づく。知人が「すいません、これ、袋に入れてもらっていいですか?」と声をかけると、ようやく瓶をビニール袋に入れてくれる。ほどなくして発送資材を探しに行っていた店員もレジに戻ってきたけれど、さほど悪びれた様子もなかったので、「いや、ありえないだろ」「ほったらかしてどっか行くって、そんなことあるか?」と言って、店を出る。知人がとたんに不機嫌になる。知人はぼくの文句の言い方を嫌う。あんな言い方をしたら相手と同レベルになる、と言う。しばらく言い合いながら歩く。たぶんぼくは、失礼な接し方をしてきた相手がいたとしたら、相手にも同じような思いをさせないと気が済まないのだと思う。危ない考え方だ。