10月31日

 6時過ぎに目が覚める。風邪っぽくなくてホッとする。同じフロアに宿泊しているのであろう小さなこどもが廊下を駆けまわる声が聴こえてくる。その子たちが部屋に戻って叫んでいる声も、わりとしっかり聴こえる。このボリュームで他の部屋の音が聴こえてくるのだとすれば、自分のいびきが響いていなかっただろうかと不安になる。1階に温泉があるけれど、この状況下で誰かと一緒に湯に浸かるという気にはどうしてもなれなくて、部屋でシャワーを浴びる。部屋のシャワーはあまり使われる前提にないのか、ボディソープやシャンプーが容器で設置されていなくて、小さな固形石鹸が袋入りで置かれている。

 9時にホテルを出て、レンタカーを走らせ「山内うどん」を目指す。たしか去年行こうとしたものの、定休日と重なって行けなかったお店だったはずだ。ナビに名前を入力し、田圃が広がる風景の中を走る。信号を曲がり、少し山に分け入ったところに、うどん屋があらわれる。朝から車が10数台停まっていて、店内は賑わっている(ただしすぐに入店できた)。“ひやあつ”の大(冷たい麺に温かいおつゆをかけた、2玉のうどん)を注文し、ごぼう天とちくわ天をつける。家族連れが次々やってくる。格好が皆、部屋着に近い。普段使いの店なのだろう。こういう場所にくると、しみじみ感じ入ってしまう。うどんも美味しく、この雰囲気込みでうまいと感じている部分はあるけれど、知人にも食べさせたくってお土産を2袋買っておく。

 お店を出て、車を走らせながら、考える。今のうどん屋さんのように、その土地に暮らす人たちが普段使いしているお店で、その生活に混じって過ごしていると、しみじみ感じ入ってしまうというのはどういうことだろう。自分はその生活の一部になる(その生活を築く)こともなく、いろんな場所を転々としながら「感じ入る」というのは、何をやっているのだろう。昨日の昼公演のあとに立ち寄ったものの、もうほとんど売り切れていたカタパンの「重岡」まで車を走らせ、えびせんを100グラム×2袋と、石パンを100グラム、それに芋けんぴも100グラム買い求める。近いうちに水納島に行くつもりだかから、えびせんをもう4袋ぐらい買っておきたかったけれど、そんなに小分けで買うと迷惑な客になるのではと思ったのと、善通寺の名物なんですと言われても「はあ」としか思われないのではと思って、手土産を買うにしても別の場所で買うことにする。一度ホテルに引き返す。あちこちで駐車場の“勧誘”を受ける。

 13時、『DELAY』を観る。制作のKさんに「インタビューするとしたら、このタイミングでどうでしょう?」という話をしたあと、車を駐車場から出す。すると、ゆらゆらと歩いているY.Eさんの姿が目に留まる。これから倉敷まで行くんですけど、乗って行きますかと声をかけ、後部座席に座ってもらって出発する。昨日と今日に観た作品の感想を話しているうちに倉敷にたどり着き、コインパーキングに車を停める。美観地区は大賑わいだ。観光地はこんなに賑わっているのだなあと踊りきながら歩き、「蟲文庫」にたどり着く。久しぶりにお邪魔できて嬉しい。コーヒーでもよかったらと声をかけてくださったので、Y.Eさんも紹介する。

 本を3冊買ったあと、小上がりに腰掛けながら、ぽつぽつ話す。それを取材するにはもう少し年月が必要だと思うんですけど、石にまつわる逸話の取材をしたくて。そんなことを言うと、あ、つい最近読んだ本の中に、こんな逸話が書かれていて――ほんとについ最近読んだので、このあたりにあるどれかなんですけど、と帳場の周りを探し、『岡山の干拓』という本を見せてくれる。自然と危口さんの話にもなる。ぼくが往来座で限定販売していた『SKETCHBOOK』というリトルプレスを出していたとき、危口さんは帰郷するたびに「新しいのが出てますよ」と、貸しにきてくれていたのだという。危口さんはあれを買ってくれていたのかと驚く。

 話しているうちに、日が傾いてくる。あまり長居し過ぎてもと、コーヒーを飲み干したところでおいとまする。またきますと言ってお店を出ようとすると、軒先まで見送ってくれる。駅前の「ふるいち」でうどんを平げ、Y.Eさんと別れ、レンタカーを走らせる。どうしようかと迷ったけれど、やはり高松の古本屋「YOMS」にも立ち寄っておきたくて、高速を走らせ高松を目指す(高松を経由すると、結構なまわりみちになる)。1時間ほどで、昨日の朝と同じコインパーキングに車を停めてみると、街がなにやら騒々しい。直感的に「選挙だからか?」と思ったけれど、そんなことはなく、ハロウィンで仮装した若者たちが街に溢れているのだった。マスクをしていない若者もときどきいるけれど、わりとマスクをつけている。無軌道に騒いでいるというより、とにかく街に出て、見知らぬ誰かと出会いたいという熱が溢れている。あちこちで「一緒に撮りませんか」と声を掛け合っている。ジョーカーのコスプレを見かける。

 19時半、「YOMS」に入り、棚をじっくり眺める。あれこれ購入する。12時オープンだから、昨日は立ち寄れなかったけれど、きておけてよかった。「ルヌガンガ」は目と鼻の先で、良い街だなあと、旅行者らしい無責任さで思う。このタイミングで高松にいるんだったら、やっぱり、と車を走らせ、パーキングに駐車し、小川淳也選挙事務所まで暗がりを歩く。時刻は19時55分、選挙事務所には応援する人たちが詰めかけていて、後方にずらりとメディアがカメラを構えている。中に入るのはおこがましいので、外から眺める(建物はガラス張りだ)。選挙事務所って場所はこれぐらいの規模なんだなあ。ほどなくして20時になり、開票時刻を迎えた瞬間に、小川淳也の当確が出る。歓喜に沸く様子を数分眺めて、車に乗り、TBSラジオの選挙特番を聞きながら琴平に帰った。