11月11日

 4時50分にアラームで起きる。シャワーを浴び、コーヒーを淹れる。今日はとても美味しく淹れることができたが、そんな日に限って自分で飲むのは1杯だけだ。知人の分を魔法瓶に入れて、「行ってくるで」と声をかけ、5時45分に家を出る。那覇行きの飛行機は空いていて、僕が座っている5列目は他に誰も乗客がいなかった。これなら、どっちの窓側にでも移動できる。フライト中に、キャビンアテンダントに「今日のフライトは、伊江島はどちらに見えますか」と尋ねる(見たいのは水納島だけれども、それだと伝わりづらいので、伊江島で尋ねた)。このあとの状況によって経路が変わるようで、近づいてきたらまたお知らせしますと、キャプテンに確認をとったキャビンアテンダントが教えにきてくれる。

 飛行機の中ではいわきのプロジェクトのドキュメントを書いていた。10時20分頃に、ふたたびキャビンアテンダントがやってきて、「10時30分頃、進行方向の右手に見える予定です」と教えてくれる。せっかく教えてもらったものの、雲が多くて水納島はまるで見えなかった。11時には那覇空港に到着し、まずはPCR検査を受ける。今回は東京滞在が短く、東京で受けられなかったので、午前中に受ければ当日中に結果が判明する那覇空港の検査場を選んだ。ここの検査キットは唾液を入れる容器しかなく、ストローがないので少し苦戦する。検査場で検査を受けているのはぼくを含めてふたりだけだ。

 ゆいレール牧志駅へ。向かいの席に座る、キャリーバッグを携えたスーツ姿の男性がマスクをあごにずらしたままで、凝視する。ずっと鼻先をこすりながら、タブレットに見入っていた。牧志駅安里駅の中間地点あたりにある「MR.KINJO」に向かう。栄町市場に飲みにいく途中に、いつも通りかかっているホテルだ。荷物を預かってもらって、「市場の古本屋ウララ」へ。おめでとうございますと挨拶をして、棚を見る。いつだかUさんがエッセイに書いていた記憶のある、金子光晴が編集した山之口獏の詩集が目にとまり、買う。「さっき、対談がアップされてましたね」とUさんに言われて確認すると、おお、アップされている。ちょうど1週間前に、テラス席でマスク会食しながら話したトークを、二日で構成してチェックしてもらい、急いで公開準備をしてもらって、どうにかウララ10周年の日に公開することができてホッとする。

 13時過ぎ、むつみ橋の「K」へ。今日の15時過ぎに取材をさせてもらう約束をしているけれど、先におそばをいただく。ここにあるそばは取材依頼をするまでに全種類食べているけれど、記事に掲載するために写真を撮るとしたら、どのおそばがいいですかねと相談し、かけそばをいただく。またあとでお邪魔しますと告げて、お店を出る。「Caféパラソル」でアイスコーヒーを買って、

パラソル通りのテーブルに腰掛け、インタビューの質問リストを練る。今日は軍人とおぼしき人が行き交う数が多い気がする。週末にちらほら見かける、若くて筋骨隆々の人だけでなく、ジャケットを羽織った老紳士のような金髪の男性も見かけた。平日になぜ、と思って調べてみると、今日は退役軍人の日という祝日らしかった。

 15時を少し過ぎたところで、再び「K」に向かうと、「あ!」と店主の妻が言う。「ごめんなさい、主人はさっき、体調が悪くなっちゃったみたいで、帰っちゃったんです」と。じゃあ、明日あらためてお邪魔しますと伝えて、お店をあとにする。念のためにと2泊でスケジュールを組んでおいてよかった。街をぶらつきながら、「M」で約束している18時までのあいだ、どうやって過ごそうかと考える。「M」の店主の方には、電話で取材のお願いをしていただけで、どんな連載なのかをまだお伝えできていなかったので、とりあえず記事のコピーを持ってお店に行ってみることにする(電話で依頼したときに、木曜は定休日で、ずっと店で仕込みをしてるから、何時でも大丈夫ですよと言っていただけていたこともあり)。

 お店に伺ってみると、ちょうどお仕事がひと段落されて、一休みされているところだ。今からでもいいですよと言っていただけて、そのまま話を聞かせていただく。ごく個人的な体験まで話してくださり、最後に「今回、取材してもらえてよかったです。ちょっと気が楽になりました」と言われる。ぼくがやっているのはあくまで取材であってカウンセリングではないので、「自分の取材が人の気持ちを楽にすることもできるんだ」と思い上がったことを考えるわけにはいかないけれど、仕事のことだけでなくこれまでの半生を語ってもらうということは、それだけ相手に踏み込んだ仕事なのだと常に自覚しておかなければならない。

 今日の夜は一緒に飲もうと誘われていた。場所はシェアハウスだと聞いていたので、一度宿に帰り、洗濯したての服に着替えてから、その場所に向かう。行ってみるとまだそこに暮らしている人たちしかおらず、ビールを飲み始めていると、僕を誘ってくれた人もやってくる。一昨日から沖縄入りして、北部を巡っていたという。そこで一緒にめぐるメンバーに自分はキャスティングされなかったんだなと、沖縄に行く予定だという話を聞いたときから思ってしまっていたけれど、飲んでいるあいだ、ずっとそんな気持ちになってしまう。ひたすらビールを飲んで、23時半頃にホテルに帰る。