11月12日

12

 6時過ぎに目を覚ます。昨晩ぐるぐる巡っていた感情が消えていなくて、午前中はあまり仕事をする気になれず、ベッドに横たわったままバラエティ番組の動画を眺めていた。10時半頃に電話が鳴る。「K」の店主の妻にあたる方(お店を一緒に切り盛りされている)からで、今日も具合が悪くて、病院に行っていて、取材のことをどうしようかと思って――と告げられる。「橋本さん、東京に戻られるのはいつなんでしたっけ?」と尋ねられ、明日の午後なんです、と答える。なので、もしも明日、体調が戻られていて、もしお時間いただくことが可能ならお店をオープンされる前か、あるいはまた12月に沖縄にきて、そのタイミングでお話を聞かせていただくか、ご相談できればと伝える。「わかりました、ちょっと主人の様子を見て、今日また連絡しますね」と言っていただき、電話を切る。切ったあとで、「もしも明日、体調が戻られていたら」なんてお願いするのは非常識だったのではないかと反省する。昨日のお昼はお元気そうだったこともあり、少し体調を崩されたぐらいかと思ってやりとりしていたけれど、かなり具合が悪い状態だったとしたら、かなり非常識なやりとりだ。スケジュールのことだけ考えてしまっている。

 11時半、のうれんプラザに出かける。昨日話を聞かせてもらった「M」はほとんど満席だ。昨日の取材のあとに、「明日、お店にお邪魔して、料理のお写真を撮影させていただきたい、混む時間の前にお邪魔しますので」とお願いしたところ、11時半ぐらいのほうが、お客さんが入った状態をとってもらえるだろうからと、この時間を指定してもらっていたのだ。券売機でちゃんぽん(700円)を購入して、店主のNさんにお願いして、Nさんが調理する姿を調理場の入り口から撮影させてもらう。満席に近い客席から「なんか撮ってるな」という視線を感じるが、撮っておかなければ良い記事にならず、出来上がったちゃんぽんもいくつかの角度から撮影しておく。

 Uさんのお店で少し立ち話をしたあと、宿に引き返す。14時過ぎ、再び「K」の店主の妻にあたる方から電話があり、「主人は今日、15時頃からお店に出てくるみたいなんで、17時あとにきてもらえたらお話ししますと言ってました」と告げられる。16時にホテルを出て、市場界隈へ。今回はいつもと違う宿に泊まっているから、市場に向かうときの角度が違っていて、少し不思議な感じがする。日が傾く前に「K」の外観と、むつみ橋交差点の写真を撮影しておく。撮影していることに気づいた店主のIさんが軒先に出てきて、「昨日はごめんね」とおっしゃる。いえいえとんでもないです、また17時ごろお邪魔します、と返事をする。そうだ、『市場界隈』のとき、このドン・キホーテのビルの上の階に入っている託児所かなにかにお願いして、窓から交差点を見下ろす写真を撮影させてもらったなと思い出し、エスカレーターに乗る。ドン・キホーテは今も営業しているけれど、上の階に入っていたテナントはほとんど撤退し、窓際に立ち寄ることはできなくなっていた。

 16時45分頃に「K」に戻り、1時間ほど話を聞かせていただく。「こんな話でいいの?」と店主のIさんは笑っていた。明日の朝に写真を撮影させてもらう約束をして、お店を出る。仕事も終わったことだし、「パーラー小やじ」に入り、ビールを飲んだ。誰かに話を聞かせてもらっているときだけ、自分が存在しているような感覚になる。鰹の刺身で日本酒を2杯飲んで、宿に引き返す。テレビではネタ番組をやっていて、それをぼんやり眺めながら、ベッドで横になる。まだ気持ちが少し落ち込んでいる。そのうちにうたた寝してしまって、気づくと21時半だ。

 このまま寝ていようかとも思ったけれど、せっかく安里寄りの宿に泊まっているのだからと、おでんの「T」に出かける。今日もカウンターは空いているので、そこに座り、おでんを数品だけ注文する。ひとしきり飲んだあと、「はしもっちゃん、そろそろ帰る?」と尋ねられる。そろそろ会計をお願いしようと思っていたところだったので、「はい」と答える。「今回は結構長くいたんじゃない?」と尋ねられて、ああ、帰るというのは「そろそろ(東京に)帰る?」だったのかと気づき、泡盛の水割りをもう一杯作りながら、「実は、一旦東京に戻って、2日だけいて、またこっちにきてて、明日また帰るんです」と話す。今は23時閉店になっているので、酔客がやってきては入店を断られている。カウンターにはお皿が山積みになっている。ただ、いつもよりはコンパクトにまとまっているなと思って眺めていると、「こないだ、生ビールを出すのをやめたの」とMさんが言う。ひとりでやってると、生ビールを注ぐ時間が大変だけど、瓶ビールならすぐに出せるからさ。それに、生ビールのジョッキは場所をとるし、洗うのも大変だけど、グラスだと楽だから、と。23時前にお店を出て、ほろ酔い加減で宿に引き返す。酒屋さんはもうシャッターが降りていて、ゴン太の姿は見れなかった。