11月25日

 テレビをつけると、今季一番の冷え込みだと天気予報で言っている。太平洋側に位置するいわきにいると、ちょっと信じられないような感じがするけれど、福島でも内陸ではかなり雪が降っているようだ。ホテルの洗濯機で洗濯したのち、8時50分にホテルを出て、駅前ロータリーからタクシーで劇場を目指す。徒歩10数分の距離だけれども、タクシーの運転手さんに確認しておきたいことがあったので、タクシーに乗って話を聞く。9時過ぎに劇場別館すると、一階のホールには何やらかしこまった雰囲気が漂っている。市の職員の勤続表彰式が開催されているようだ。

 この日は朝から、稽古場から劇場への荷物の移動作業が始まる。12時半に、劇場のTさんが「ジュネス」のサンドイッチを買ってきてくれて、お昼休憩になる。相変わらず玉子サンドのボリュームに圧倒される。13時過ぎ、テクニカルリハーサルが始まる。いよいよ本番が近づいているのだと感じる。テクニカルリハーサルは、作品の冒頭から、音響、照明、映像、俳優の動きを確認しながら微調整を重ねていく作業で、気の遠くなるような時間だとかつては思っていたのだけれども、今日はなぜだかわくわくする。18時過ぎにはラストシーンにまでたどり着き、全体での作業はこれで終了となる。

 稽古がひと段落したところで、展示の作業も進められてゆく。ぼくが書き綴ってきたドキュメントも、会場に展示されるようだ。そこには刷り上がったばかりの6通目も展示されていて、俳優のHさんが食い入るように読んでいる。自分の本を書店で手に取ってぱらぱらめくっている人は何度か見たことがあるけれど、それは「この本を買おうかどうか」とぱらぱら読んでいるだけで、熟読しているわけではなかった。自分の書いた文章を誰かがじっくり読んでいる姿を目にすることは滅多になく、ちょっと感動しそうになるけれど、ドキュメント担当としてこの場にいることもあり、その感情はそっと飲み込んだ。

 それぞれのセクションで作業は続くが、ぼくは劇場を後にして、宿に向かう。途中で「ヤマニ書房」に立ち寄る。ノンフィクションの棚があり、じっくり確認してみたものの、自分の本は置かれていなかった。ただ、ぐるりと店を眺めていると、ちょうど読み返したいと思っていた『自分ひとりの部屋』があり、これを買って「鳳翔」へ。しばらくするとFさんやKさんもやってくる。今日はここで晩御飯を平らげることになったようで、ぼくも一緒に奥の個室に移動する。最初は3人だけで過ごしていたこともあり、今回の作品から思い浮かぶことをひとしきり話す。「それにしても、ほんと、これまで何杯ビールを飲んだんでしょうね」と、Fさんがつぶやくように言う。途中から人数が増えるにつれて、ぼくが今日この場所で口にできる言葉はもうなくなったように感じて、ひたすらビールを飲んでいた。円卓の自分が座っていた位置に千円札を何枚か置き、トイレに立ったついでにホテルに帰る。誰かと別れの挨拶を交わすことがどうしても苦手だ。