11月27日

 10時半、劇場にたどり着く。昨日の公演で感じたことをFさんが皆に伝え、いくつかシーンを返す。お昼は地元のスーパー「マルト」のお弁当がケータリングに並んでいる。今日は昼公演なので、14時に開演するはずだったけれど、観客席がなかなか埋まらず5分押しとなる。14時ギリギリに駆け込んできたのがことごとく関係者だったので、おい、と思ってしまう。こういうのは自分のよくないところだ。自分がその公演を観ることに時間を注いでいるからといって、他の人にも同じように求めるのはおかしな話だし、それぞれに用事や生活があるなかで、いわきまでやってきて観劇する時間を設けるだけでも大変なことだ。

 今日はキャットウォークの真ん中に陣取り、終盤は静音撮影モードで写真を撮っておく。公演が終わると、そっと楽屋に戻り、買っておいた缶ビールを飲み干す。また劇場に引き返し、客席に座ってしばらく舞台上の様子を眺めたあと、窓から見える写真を撮っておく。缶ビールを飲みながら一度宿に戻り、荷物を置いたのち、予約してあったお店に向かう。案内された個室に入ってみると、広々とした個室に、ひとりぶん空席をあけるようにお箸や取り皿がセットされている。対策がとてもしっかりされている。今日と明日は14時開演だから、今日の夜が一番余裕があるので、今日は皆で一緒に夕食がとれた。

 ぼくは料理にはあまり手をつけず、酒ばかり飲んでいた。というのも、Fさんが「今日こそHでラーメンを食べたい」と言っていて、それに付き合おうと決めていた。21時頃、数人で「H」に流れると、ちょうどY.Eさんがお店から出てくる。Yさんはワークショップの参加者でもあり、せっかくだから一緒にと「H」に入る。近くの席に俳優のHさんが座っている。昨日の晩に「この作品を観てると、ビールが飲みたくなる」と伝えてしまったことが、ずっと引っかかっていた。上演中の作品では、「ビール飲みてー、、、」という言葉が何度となく繰り返される。もしかしたら、「単にそういう台詞が連呼されるから飲みたくなる」という感想として伝わっていたら駄目だなと反省し、あらためて言葉を伝えておく。

 これで今日やっておくべきことは終わったと思いつつ、ラーメンを注文する。隣のFさんとぼくは普通のラーメンを、劇場のTさんが坦々麺を注文した。それが運ばれてきて、さあ食べるかとなったところで、「ちょっと、橋本さん、大丈夫っすか」と声をかけられる。どうやら店員さんが担々麺を僕の背中にこぼしてしまったようだ。アウターを着たままだったので、まったく気づいていなかった。どうやら結構な量を背中にこぼされていたらしく――それも醤油ラーメンではなく坦々麺を――店員さんも「クリーニング代をお支払いします」と詫びている。今年買ったばかりのアウターだったけれど、今回のいわき滞在中に着て過ごしたというだけでも思い出として残り続けるので、もう十分だったような気がする。それで「いやいや、クリーニング代なんか大丈夫です、この服とはきっとここまでの運命だったんです」と(他の人からすれば)わけのわからないことを口走っていると、橋本さん、それ、脱いでくださいとヘアメイクのOさんが立ち上がり、店員さんからいくつかおしぼりをもらって、シミにならないようにとずっとポンポン叩き、汚れをとってくれた。

 少し落ち着いたところで、「サービスです」と、店員さんが人数分の杏仁豆腐を運んでくる。それを見て、かえって怒りが沸きかける。この一週間でここを訪れるのは5回目だけれども、常連客には時折、無料で杏仁豆腐をサービスしているのを目にしていたからだ。常連客には無料でサービスしていたものが、坦々麺を背中にかけてしまった客へのお詫びになると思っているのだとすると、少し憤りをおぼえそうになるけれど、一口食べて「おいしい!」と皆が口々に言う。そっか、美味しいならいいか――と思っていると、一緒にテーブルを囲んでいたひとりが、1分とたたずに杏仁豆腐を完食している。その姿を見たFさんは爆笑し、「いや、この面白さってどう演出すれば伝わるんだろうな」と、ホテルに戻る道中まで話していた。