11月28日

 今日は滞在最終日だ。ずっと気がかりだったのは、帰りの特急だ。もしもぼくのぶんも一緒に手配してもらっているとすれば、皆と一緒に特急に乗ることになる。他の皆も結構荷物があるはずだ。そうすると、特急の車内で荷物の置き場に困ってしまう気がする(特急ひたちには特に荷物置き場のような場所がない)。だから、キャリーバッグだけ宅急便で送るつもりでいたけれど、どうやらまだチケットは手配していないことが判明した。皆がバラシの作業をしているうちに帰京すれば、荷物の置き場に困ることもないだろうと、自分の便は自分で手配することにする。

 10時、歩いて劇場に向かう。今日は返し稽古はおこなわれないことになり、穏やかな時間が流れている。俳優のHさんはストレッチをして、舞台上でひとり、台詞をさらっている。12時になると、ぼくがドキュメント用に撮影しておきたいシーンを4つ、照明と映像、道具の配置を整えてもらって、撮影させてもらう。自分の記録のために仕事を増やしてしまっていることが申し訳なくて、撮影が終わったあと、舞台監督のKさん、照明家のMさん、映像のMさんにひとりずつお礼を言う。

 今日のお昼は「サンピノチオ」というお店でテイクアウトした料理が並んでいる。昨日のうちにオムライスかカルボリゾットかアンケートが取られていたけれど、圧倒的にオムライスを選んだ人が多かったようだ。ぼくはリゾットをいただき、14時、最後の公演を観る。去年の12月からプロジェクトが始動して、何度かいわきを訪れてワークショップを重ね、展覧会を2度開催して、大勢のスタッフが携わって稽古がおこなわれ、ようやく完成した作品がわずか3日で終わってしまう。なんと贅沢なことだろう。

 だから今日は、この公演に携わっていたひとりひとりに挨拶をして帰ろうと決めていた。でも、終演後に開催されたトークイベントを聞いているうちに、16時10分だ。ぼくは17時21分の特急を予約してしまっていたので、そんな余裕はなさそうだ(スタッフの皆さんは、撤収作業に取り掛かり始めている)。せめてこの人にはと、Fさんには「じゃあ、また」と伝えて、劇場をあとにする。「ラトブ」の寿司屋さんに入り、自分が食べたかったボタンえびと目光を平らげて、ビールを飲んだのち、これはFさんのぶんとサーモンを、これはHさんのぶんとむしえびを注文し、追加で頼んだちっこビールで流し込んだ。

 劇場のケータリングには、観劇に訪れた人たちからの差し入れが日々少しずつ増えていた。そこに今日は、Hさんのご両親から差し入れられた又兵衛のカップ酒があった。それを一個確保しておいたので、特急に揺られながらここに至るまでの時間を反芻しながら、ちびちびと又兵衛を飲んだ。