12月17日

 5時過ぎに目を覚ます。7時過ぎに散歩に出てみると、かなり強い風が吹いていて、ちょっと歩きづらいほど。ローソンでホットコーヒーと鮭のおにぎり、それに豚汁を買って帰る。10時にホテルをチェックアウトし、博物館を覗く。前にも見たことがあるけれど、何か重大な見落としがないか、もう一度常設展を見ておく。今日は夕方に那覇に戻ればいいだけなので、せっかくだからと町営市場にも立ち寄る。オープンしたばかりの「きしもと食堂」にするりと入れそうだったので、駐車場に車を停めて、そば(大)を注文。食後に市場でコーヒーを買いたかったのだけれども、「みちくさ珈琲」はシャッターがおりたままだ。

 

 ナビの目的地を残波岬にセットして、沖縄自動車道を南下する。石川インターで降りて、読谷村へ。途中で眞栄田岬のあたりを通りかかると、妙にアメリカな雰囲気が漂っている。瀬名波の交差点、道がちょっと複雑で、前に通りかかったときと同じように右折しそびれてしまう。細い道を抜け、どうにか正しいルートに戻り、「Cape Zanpa Drive-In」へ。まだお腹が減っていないので、自家製コーラ(500円)だけ注文。インスタグラムをフォローするとステッカーがもらえるようなので、フォローして受け取る。「いつオープンされたんですか?」「ドライブインってつけたのは、何かきっかけがあったんですか?」と、ついつい質問してしまう。

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 テラス席でコーラを飲みながら、再校に赤字を入れていると、オーナーの方が話しかけてくださる(さっき質問した店員さんが伝えてくださったのだろう)。沖縄は昔ながらのドライブインが数多く残っているものの、新しくオープンしたドライブインというのは聞いたことがなかったので、珍しくて気になったんです。そう伝えると、関東だと「Pacific Drive-Inn」もありますけど、ここで何かお店をとなったときに、ドライブインというイメージがパッと浮かんだのだと、オーナーの方が教えてくださった。「Pacific Drive-Inn」は湘南にあるおしゃれなドライブインで、ドライブインの取材をしていた時期だと、この10年で新規オープンしたドライブインといえばそのお店くらいだったように記憶している。

 『ドライブイン探訪』を出したあと、いくつか取材をしてもらったときに、「ドライブインの今後は?」と尋ねられることもあった。多くのドライブインには後継者がいなくて、「これからの時代はドライブインで食っていくのは厳しいと思うから、こどもたちには継がせない」とおっしゃる店主もいた。だから、「ドライブインの今後は?」と質問されても、ごにょごにょと言葉を逃していた。でも、ドライブインの黄金時代が過去に遠かったことで、巡り巡って、ドライブインが古くて新しい文化として、(かつてほどではないにしても)各地にオープンする可能性も、ひょっとしたらあるのかもしれないなと思う。その「ドライブイン」は、かつてのように和風に翻訳されたものではなく、現地の雰囲気に限りなく近いのではないかと思う。

 30分ほどテラスで過ごして、店をあとにする。天気は悪くても、こども連れのお客さんで賑わっていた。車を走らせていると、残波でおなじみの比嘉酒造の前を通りかかり、「いつもお世話になってます」と会釈して通り過ぎる。読谷のパン屋「水円」に立ち寄って、スコーンと黒糖パンを買う。しばらくロバを眺めて、国道58号線を南下し、那覇市泊に先月オープンしたばかりの「古書ラテラ舎」へ。以前はりうぼうの「リブロ」で店長をされていたTさんが夫婦で始めたお店。真新しい店舗に、沖縄本や文芸書、音楽や映画、思想・哲学系の本、漫画や絵本と幅広いジャンルが並んでいる。棚をじっくり見つめていくと、『月刊ドライブイン』の創刊号が棚の上に陳列されていてびっくりする。『HB』(vol.2)もあって、ふたたび驚く。古本屋さんに自分がたずさわった本が並んでいると、自分がいなくなったあとでも誰かが本を手に取ってくれるような感じがして、嬉しくなる。

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 ホテルにチェックインしたのち、レンタカーを返却し、タクシーで市場界隈へ。まずはUさんのお店に立ち寄る。「12月はいらっしゃらないのかと思ってました」とUさん(11月の滞在中に、1月に掲載する回まで取材を終えていたので、「来月はこないかも」と伝えていた)。白い長袖シャツの上にアディダスのジャージを羽織っていたら、「学生みたいですね」とUさんが言う。前回の滞在のあとに、公設市場のリニューアルオープンが一年延期になると発表されているけれど、Uさんも「ショックだった」という。あれこれ話し込んでいるうちに小一時間経っていて、あれ、そろそろ閉店の時間かもと、話を切り上げておいとまする。

 「パーラー小やじ」に入り、生ビールを注文。“離れ”のようになっているカウンター席を広々使わせてもらう。今日は風が冷たく、3杯目は熱燗にした。いちどホテルに引き返し、『水納島再訪』の「はじめに」と「おわりに」の修正案を練ったのち、21時過ぎにふたたび外に出る。コートを羽織ってもまだ少し寒いくらいだ。沖縄で取材を始めた3年前には、沖縄に暖房器具があるのが信じられないと思っていたのに、これは一体どういうことだろう。「東大」を除くとカウンター席には先客がいらして、奥の広いテーブル席に案内される。いつもひとりだから、このテーブル席に案内されるのは、数年前に『みえるわ』という作品のツアーで沖縄を訪れたとき、スタッフも含めて皆で訪れて以来だ。テーブルには透明なビニールが敷かれていて、ビニールとテーブルのあいだには名刺がずらりと並んでいたけれど、今はすっかり片付けられている。ただ、そこに新聞記事の切り抜きが挟まれていて、その新聞記事というのは、僕が『市場界隈』を出版したときにタイムスに掲載された記事だった。この席に座る機会がなかったから、ずっと気づかなかったけれど、そうか、こんなふうに記事を貼ってくれていたのかと、しみじみした気持ちになる。

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