2月9日

 7時過ぎに目を覚ます。8時過ぎ、レンタサイクルを借りて、市場界隈を巡る。「MYG紙商店」にも立ち寄る。『市場界隈』のときに取材させてもらったお店で、水納島の連載の中でお話を再録させていただくにあたって、「お話をもういちど使わせてもらっていいですか」とご相談していた。本の中にもその話は掲載させてもらっているので、書籍を1冊手渡す。本の後ろに表記されている値段を見て、「これ、代金は……」とおっしゃるので、いえいえ、もちろんお代なんて要りません、せめてものお礼に、とお伝えして、お店をあとにする。そこから自転車を押しながら歩いていると、パラソル通りに「撤去のお知らせ」という貼り紙を見かけ、衝撃を受ける。

 パラソル通りは、公設市場の衣料部・雑貨部に面しており、衣料部・雑貨部は今月末で閉場を迎えることになっている。それにともなって、パラソル通りもなくなってしまうのかどうか、ずっと気になっていた。天気がいい日には、よくここでパソコンを広げ、仕事をしていた。ただ、撤去されることに「残念だ」とも言い切れないのは、界隈でお店をしている方や、近くに住んでいる方にとっては悩みの種にもなっていたはずだからだ。そこには、よれよれした感じの人たちが集まり、「飲酒禁止」の貼り紙を無視するように昼から酒盛りをしていた(専用席のように荷物が置かれたままになっていることもある)。あるいは、それとは別で、テーブルに大量の荷物を置き、そこを占拠している人もいた。ただ、定まった場所を持つことなく界隈を散策している自分が――その人たちから「ナイチャーが歩いてるよ」と言われたことがあるにしても――あの人たちが居座れないようにしたほうがいい、とも言えない。なにかうまい出口はないものかと思う。

 10時、某所で打ち合わせ。打ち合わせ自体は早めに終わったものの、しばし雑談になる。橋本さんは、どうしてこんなふうに“無名”の人たちの声を拾う方向に向かうんですかと尋ねられる。無名かあと思いつつ、あれこれ答える。「いや、ノンフィクションの書き手の中には、簒奪していくような連中もいるでしょう。奪っていくように書く連中が。沖縄のことを飯の種としか思ってないんだ。でも、橋本さんはそういう感じがしない」と言われて、ホッとしながらも、本当だろうか、自分は何も奪わずに書けているのだろうかと自問自答する。11時、リブロを覗く。ここでもまだ僕の本は並んでいなくて、少し不安になる。自転車こいでジュンク堂書店に移動してみると、お店に入ってすぐの一等地にドーンと展開されていて驚く。「100冊入荷する」という話は聞いていたけれど、100冊だとここではなく、入り口脇のワゴンに展開されるものだと思っていたので、嬉しくなる。A3で用意していたポスターを拡大して、これはB2だろうか、かなり大きく展開してくださっている。

 12時、タクシーで那覇空港へ。保安検査場を通過したあと、ロビーの隅っこで「上原パーラー」で買っておいたネパールカレーをかきこみ、搭乗する。最後列の窓側。通路側に座っている乗客が、ずっと咳き込んでいてそわそわする。成田空港に到着したあと、ジュンク堂書店で大々的に展開していることを写真付きで担当編集の方に伝えたのち、ポスターをスキャンして拡大コピーしてB2サイズにしてくださっているので、せっかくなら綺麗な画質で貼れたらと思い、拡大したものを持っていっていいかどうかご相談。それならば、現状だと同じデザインのポスターばかりになっているので、先方の意向を確認した上で、別バージョンのチラシやPOPなどをお届けするのもよいのではという話になる。

 16時45分に一度帰宅したあと、すぐに渋谷を目指す。地下鉄はがらがらだ。「T書店」に向かい、依頼をいただいていたサイン本を作る。せっかくだから色紙もという話になり、東京に色紙を飾ってもらうならどんな内容がいいだろうかと、しばらく文言を考える。店員のYさんと話していると、去年からの流れもありますし、いや、それを全然加味しなくても、ノンフィクション本大賞とれるんじゃないですかと言ってくださる。この本は日本各地にも届きうる本だと思ってはいるので、あとはいかに手に取ってもらえるきっかけを増やせるかどうか。すぐに地下鉄で引き返す。帰りの千代田線はコートの裾が触れるかぐれないかぐらいに混み合っていて、今の感染状況を考えると心配になるのだけれど、そんなことで心配していられるのは出勤せずに仕事ができる人間だけで、混み具合に神経質になっている人は見当たらなかった。