2月21日

 目が覚めて、ケータイで時刻を確認するとまだ3時だ。いくらなんでも早過ぎるので、芸人のラジオを聴きながら少し二度寝をしてみたものの、4時半にはもう起き出して、コーヒーを淹れる。3分の1は自分が持っていく魔法瓶に、残りは知人が会社に持っていく魔法瓶にいれておく。6時過ぎのスカイライナーで空港に向かうつもりでいたけれど、その時間のスカイライナーだと出発の40分前にチェックインカウンターに到着することになり、いつもせわしなくなるので、5時45分発のスカイライナーに乗ることにして、早めに家を出る。

 タクシーで日暮里駅に出て、ホームで電車を待っていると、出張というより旅行といった雰囲気の乗客のほうが多く感じる。空港第2ビルで下車し、荷物を預け、保安検査場を通過する。前にこの時間の成田空港を歩いたのは2月3日で、あのときに比べると、空港に人が増えている。出発ロビーの、あまり人がいないエリアに腰を下ろし、いくら醤油漬けのおにぎりを頬張り、コーヒーを啜る。いつもは保安検査場を通過する頃には優先搭乗の時間も終わり、「すべてのお客様を機内へとご案内しております」とアナウンスがされているけれど、今日はまだ搭乗手続きが始まっていなくて、いつもと違う時間を過ごしていることに、ふわふわした心地がする。

 飛行機に搭乗してみると、「本日のフライトは満席となっております」とアナウンスがあり、ぎょっとする。たしかに、グループ旅行とおぼしき若者たちの姿は多かったけれど、2月下旬の沖縄便が満席とは。これから1年弱は取材を続けるつもりで、コロナの感染状況がどうであれ、「飛行機が旅行客で満席になる7月や8月以外なら――ある程度空いている状態の飛行機なら、KN95マスクとゴーグルで防備すれば、ある程度は安心して移動できるはず」なんて思っていたけれど、まさかこんなに早く旅行客で満席という日がやってくるとは思ってもみなかった。インターネットから予約できる最後列は29列目で、後ろの30列目は当日に空港でしか指定ができないのだけれど、30列目に3人組のグループ客が座り、出発前はずっと3人で話していて、ふ、不安だ!と、また神経質になってしまったけど、飛行機が離陸すると静かになる。これは何だろうなといつも不思議に思う。飛行機が出発したあとも話し続ける人たちというのは、日本人だとほとんど見かけない気がする。

 予定より15分ほど早く、那覇空港に到着する。飛行機はあんなに混んでいたのに、ゆいレールは相変わらずがらがらだ。美栄橋に出て、東横インにチェックイン。いつもはランタナ那覇国際通りに宿泊しているけれど、そこだとゆいレールの駅から10分ぐらいスーツケースを引いて歩くことになり、帰りはついタクシーを選んでしまう。空港からのアクセスと、それに前回初めて利用したシェアサイクルのポートの近さと、レンタカー店も近くにあることから、今回は美栄橋駅から徒歩2分の距離にある東横インを選んでみた。まずは荷物だけ預けにいく。受付に向かうと、ここの東横インは高い、鹿児島はもっと安かったと、クレームといった感じでもなく、ずっと話をしているお客さんがいた。

 しばらく待って、荷物を預け、市場界隈を歩く。市場本通りから市場中央通りに名称が変わる角に差し掛かる少し前の段階で、あれ、棚が見える気がする……!と嬉しくなる。近づいてみると、やはりそれは「市場の古本屋ウララ」の棚で、今日からひっそりと営業再開したらしかった。今日はとりわけ寒く、Uさんももこもこしたアウターを着込んでいる。ぽつぽつ話す。水納島再訪、書籍で改めて読んでくださっていて、トークまでに島に行ってみようか迷っている、とUさんが言う。読んで思いを馳せてくれる方はいるとしても、「行ってみよう」と思ってくれる誰かがいるとはあんまり想像していなかったので、はっとするというのか、思いがけない扉が開いたような感じがする。

 15時ごろまでは予定もなく、かといってパラソル通りに居座れなくなった今では居場所も限られてくる。前にも書いたように、パラソル通りはパラソルの幕が取り外され、パラソルから椅子にかけてネットが張られている(ただ、ゆるくネットが掛けてあるだけなので、座ろうと思えば座れるのだけれども)。すごいことするなと思ったのは、パラソル通りの一番南側にある椅子だけ、すでに撤去されていたこと。椅子といっても、路面とくっついていて動かせないようになっている丸椅子だったから、ここだけ先に削り取ったということになる。その場所は、パラソル通りの中でも、常に居座っている人たちがいる場所になっていた。これははっきりと排除だと思う。「そこだけ先に撤去する」ということを、特に説明もなく行政がやるというのは、すごいことだ。もちろん、「そこに居座って飲酒・喫煙をする人たちがいて、近隣の人たちが迷惑に感じていた」というのはあるにしても、それと、そこだけ先に撤去するというのは話が別次元にある。そうして排除された人たちは、どう感じるだろう。自分たちはどうせ疎まれているのだと感じるだろう。その人たちはきっと、また別のどこかにたむろする。その「どうせ疎まれているのだ」という意識は、その振る舞いを、より「迷惑」と感じるものに変えてしまうだろう。

「ひばり屋」に行ってみる。今日は営業中だ。さすがに肌寒いので、ホットコーヒーを注文。小一時間ほどぼんやり。15時、RK新報の連載で取材させてもらったお店に、写真の撮影に伺う。30分ほどで撮影と、事前にお送りしてあった原稿について修正点の確認を済ませる。15時半、「パーラーKYJ」に向かってみると、おお、営業している。まだまだ外は明るいけれど、今日の仕事はもう終わったので、カウンターに座ってビールを注文する。ブリ刺しも注文し、2杯目からは日本酒にする。別のお客さんはセリ鍋を注文していた。また別のお客さんは熱燗を注文していた。沖縄といえど、今日は肌寒く、それに加えてここは屋外のような場所にあるから、鍋も熱燗もうまいだろうなあと思いながらも、なんとなく冷やで飲み続ける。日本酒を3杯飲んだところでお店をあとにして、ホテルにチェックイン。荷物を解き、ひとやすみしたあと、ゆいレールで安里へ。17時半の開店時刻に合わせて「うりずん」をのぞくと、なにやらばたばたしている。どうやら今日まで臨時休業で、今日は大掃除をして、明日から営業を再開するという。すごすご引き返す。帰りはゆいレールには乗らず、缶ビール片手に歩き、ホテルに帰ってNHKオンデマンドで『ちゅらさん』を観ながら飲んだ。