1月21日

 8時過ぎに目を覚ます。部屋に食べるものがなく、買い物に出たいところだけれども、部屋が寒くて布団から出られず(ここのホテルはエアコンが一括でコントロールされていて、今の時期だと送風モードで固定されている)。10時近くになってようやく這い出し、とりあえずコーヒーを淹れる。明日が旧正月だから、今日は旧暦の大晦日だ。その様子を眺めておこうと、11時過ぎにホテルを出て、カメラ片手に界隈を散策する。鏡餅を売っているお菓子屋さんが2軒、正月飾りを売る雑貨店が1軒、門松を売るお花屋さんが1軒あるくらいで、さほど年の瀬ムードは感じられなかった。

 お昼は「上原パーラー」でネパール風カレーを買い、ベンチに腰掛けて平らげる。いちどホテルに戻り、仕事をしていると、コーヒーをパソコンのキーボードに少しこぼしてしまう。すぐに拭き取ったものの、下に染み込んだのか、いくつかのキーボードがうまく反応しないので、しばらく放置する。普段から、パソコンは2台体制で作業をしている。10.1型のWindowsは、ほぼテープ起こし専用機だ。こぢんまりしているので、あまり手を動かさなくてもタイプできる。そして、Windowsには「Okoshiyasu2」という名作のテープ起こしソフトがある(しかも無料ソフト)。Macにもテープ起こし向けのソフトは存在して、こちらもショートカットキーを設定できるので、このボタンを押せば一時停止/再生、このボタンを押せば数秒巻き戻しという設定はできる。ただ、Okoshiyasu2であれば、たとえば「↓」ボタンを一時停止/再生に、「Z」ボタンを数秒巻き戻しに設定できるから、ひとつのボタンを押すだけで作業ができる。それに比べて、Macのソフトの場合、「comandボタン+別のボタン」という形にしか設定できない。そうすると、抑えるボタンが倍になる。テープ起こしでは何度もショートカットキーを押さえることになるので、これはかなり手間が増える感じがする。だからずっと2台体制でやってきたのだが、時間をおいてもキーボードが復活せず、どうしたものかと頭を悩ませる。

 現在使っているWindowsは、ちょう10ど年前に発売されたASUSのノートパソコンだ。その時代には、10.1型のコンパクトなノートパソコンがたくさんあって、格安商品もあった。ただ、現在では小型パソコンはタブレットのようにも使えるモデルが主流になっている。そんな機能はいらないんだよなあと、価格.comを見ながらため息をつく。ズボンの後ろポケットに収納できることが売りになっていた、VAIO typePも思い出す。あのパソコンは便利だった。

 14時半に、ふたたびホテルを出る。「カフェパラソル」に立ち寄り、ホットコーヒーをいただく。界隈の店主たちが集まり、アーケードを見上げながらなにか話し合っている。補習しながら騙し騙し使ってきたアーケードのトイが限界に近づきつつあるようで、もしも落下して怪我人が出たら大変だからと、業者に修理をお願いしようとしているところだという。ちょうどカメラを持っていたので、修繕前の姿を写真に収めておく。

 界隈をぶらついても、やはり旧正月を感じる風景は少なかった。観光客や、地元客とおぼしき若い世代はわりと見かけるのだけれども、それは旧正月だからというよりも、天気の良い土曜日の光景だ。パラソルのジャンさんは、「こんなに良い天気だから、皆、もっと行楽地に出かけているのかもしれないね」と言っていた。市場が建て替えになるまえはどうだったかなあと思い返してみるけれど、記憶がおぼろげだ。Uさんのお店に立ち寄り、その話をしてみると、「私も、旧正月ってこんな感じだったっけと思っていたところです」とUさんが言う。昔はもうちょっと旧正月という気配を感じていた気がする、と(ただ、新正月の大晦日には、市場までお肉を買いに来ている知り合いもいたとUさんは話していた)。旧正月以上に、昔はムーチーの日になると、一帯にムーチーの匂いが立ち込めていて、嫌でもムーチーの日だと気付かされていたけれど、今季はそれを全然感じなかったともUさんは話していた。それに、ムーチーの日にはおすそわけのムーチーがいろんな方面からまわってきたのに、今季はそれもなかった、と。

 近くのホテルで結婚式でもあったのか、礼服姿の若者をちらほら見かける。せんべろの店はもう賑わい始めている。中には開店前に長蛇の列ができているお店もあってびっくりした。17時過ぎ、「魚友」の外のテーブルがあいだので、そこに座り、生ビールと鰹の刺身を注文する。目の前には建設中の市場があり、日が暮れるまでそれを肴に酒を飲んだ。昨日の静けさとは対照的に、今日は早い時間から飲み屋がどこも大繁盛だ。いちどホテルに戻ったあと、20時過ぎと22時半に様子を見てまわったけれど、遅い時間になっても喧騒は続いていた。なんだかくたびれているので、栄町まで歩くのは控えて、ホテルでビールと赤ワインを飲んでいた。今回泊まっているホテルからは、むつみ橋交差点が見下ろせる。つまり、交差点とのあいだに遮るものが何もなく、喧騒が部屋まで聞こえてくる。日付が変わるごろまでテープ起こしをして、耳栓をして眠りにつく。