2月24日

 7時半ごろ目を覚ます。ウェブ連載「KB」の原稿について、話を聞かせていただいた方から昨日の夜のうちに2度目の修正の連絡が届いていたので、それに返事を書く。9時過ぎ、納豆ごはん、インスタント味噌汁(油揚げ)、きんぴらごぼう、ししゃも3匹で朝食をとる。シャワーを浴びて、出かける準備をする。家を出ようとしたところで、今日もまたネット通販で荷物が届くことを思い出し、コピー用紙を小さく切り、「2/24昼 置き配希望 橋本」と書いた紙を集合玄関の入り口に貼っておき、家を出る。

 病院に到着したのは11時15分ごろだった。退院の日、医師から「次は4日後から1週間後ぐらいまでに来院してください」と言われていた。その日は医師に聞きたいことが山積みだったので、話をちゃんと聴いていなくて、「4日目から1週間後ぐらいまで」と言われたのか、「4日後から1週間後」と言われたのか、すぐに記憶が曖昧になってしまい、会計をするとき受付の看護師さんに「あれ? 次は4日後でいいんでしたっけ? 4日後ってことは――金曜日でも大丈夫なんですよね?」と確認していた。すると、受付の看護師さんは「木曜日は祝日ですから、金曜日は祝日明けで混むかもしれません――ああでも、今のところ天気予報は雨だから、そんなに混まないかもしれないですね」と言っていた。受付を済ませてみると、思ったほどには混んでいなかった。

 ただ、それなりに診察待ちをしている患者さんはそれなりにいる。自分に渡された番号札と、診察室に呼ばれる人の番号札を比べると、あいだに10人ぐらい待っている計算になる(ただ、2桁の番号[おそらく痔の患者さん]と3桁の番号[おそらく定期検診の患者さん]が混じっているので、実際にはもう少し順番待ちの人がいる)。待合室ではS・Iのドキュメントに向けたテープ起こしを進めていた。11時58分になると、入院患者の昼食の準備ができたとアナウンスが流れる。もうずいぶん昔のことのように感じる。

 50分待って、自分の番号が呼ばれる(仕事をしていたから、特に「待たされた」という感じはなかった)。自分の番号よりひとつ若い番号の人が呼ばれた段階で、ノートパソコンを閉じ、コートを脱いで、すぐに診察してもらえるように支度をしておいた。それもこれも、医師にストレスなく診察してもらって、聞きたいことを聞き出すためである。すでに診察終了時刻の12時をまわっているから、早く切り上げられそうな予感がある。ただ、扉を開けてみると、医師はずいぶん物腰が柔らかい感じだ。まずは患部を診察され、「うん、順調ですね」と言われる。その上で、切り取った痔瘻の病理検査(?)の結果を知らされる。執刀医は、切り取った部位を僕に見せたあと、ぽいっとどこかに置いている感じがあったので、てっきり捨てられたのだとばかり思っていた(同じ日に手術を受けた患者も、僕と同じように、切り取った部位は捨てられたものだと思い込んでいた)。痔瘻の管には癌は見られなかったと、若い医師が教えてくれる。その話が終わったところで、軟膏はガーゼに塗って患部に当てるでよいのかどうか確認する。それで大丈夫だと返ってきたものの、「患部に直接塗るのが怖くて、ガーゼで当ててるんですけど、直接塗る方が回復は早いとかあるんですか」と尋ねてみると、「いや、そんなことはないですよ。患者さんも、ガーゼで当ててる方のほうが多いと思います」とのことだった。

 他にもいくつか質問をする。今は1日に5、6回くらい患部をウォシュレットで洗っているけれど、それぐらいの頻度でよいのか。もうひとつ、聞いておきたいのはお酒のことだ。「お酒ね」と若い医師が言う。「お酒はね――どうしても手術をしたあとというのは、排便のタイミングやなにかで、擦れてしまって出血する可能性があるんですよ。もし出血した場合に、お酒を飲んでると、血がとまりにくくなるんですよね」と。去年の夏、舞台で何度となく耳にした言葉だ。「まあでも、血が止まりにくくなる可能性はありますけど、飲んでも大丈夫だとは思いますよ」と医師は続ける。「飲んでも大丈夫ではあるけど、傷を早く癒すことを考えると、飲まずにいるのが最善なんですか?」とさらに尋ねると、いや、そんなことはないです、との答えだった。

 入院する日には「はやく酒が飲めるようになりたい」と思っていたけれど、医者から「飲んでもだいじょうぶ」と言われたのに、もう少し禁酒しておこうかという気持ちになっているから不思議だ。これは傷の回復のことというよりも、こんなに酒を飲まずにいる機会は滅多にないので、せっかくだから今月一杯は控えておこうかという気持ちになっている。日が暮れたあとでも、やらなければならない仕事は山積みだ。診察を終えて、また15分ぐらい待って会計を済ませ、薬局で薬を買って帰途につく。

 家にたどり着いたのは13時ちょうど。今日は13時からZOOMで打ち合わせの予定が入っていたので、少し急いで帰ってきたのだが、家にたどり着いたところでケータイを確認すると、相手から「13時10分からでもいいですか?!」とメッセージが届いていた。待たせずにすんでよかったなと、ゆっくり部屋着に着替え、コーヒーをカップに注ぎ、13時10分から『c』のドキュメントに関する打ち合わせ。現時点では思ったほど予約が入っていないとのことで、部数を減らして400部にしようかと思っている旨を知らされる。ただ、現時点ではネット通販と、会場の物販での販売だけが念頭に置かれている。でも、せっかくだから、独立系の書店や古本屋にも扱ってもらいたいと思っている。それを考えると、もう200-300部は刷ってもよいような気がする。書店とのやりとりや納品作業は自分でやるというので構わないから、そのあたりのことはまた次の打ち合わせで相談することにする。このドキュメントに関しては、数ヶ月で売り切るというのではなく、自分でいちど買い取る形でもいいから、一生かけて売っていくべきものだと思っている。

 ZOOMでの打ち合わせを終えてケータイを触っていると、クラウドファンディングが200パーセントを達成していた。これで字幕がつくのだと思うと、どこかほっとしたような心地がする。14時過ぎ、昼食をとる。今日はポーク玉子。午後はウェブ連載「KB」に関して、原稿と一緒に掲載してもらう写真をセレクトする。『タモリオールナイトニッポン』でアース・ウインド&ファイアーの話題になっていたことを思い出し、「そういえば一度も聴いたことなかったな」と、流しながら作業をする。ひとしきりセレクトを終えるころには、もう日が暮れかけていた。休憩がてらにTwitterを眺めていると、新刊の一部が無料公開されていた。販促のために無料公開すること自体はよいと思うけれど、一度も無料公開について話す機会もないまま、知らないうちに公開されていることに驚く。刊行情報が公開されたときにも、目次と一緒に、しれっと「まえがき」がアップされていたことにもモヤっとしていたので、すぐに担当のMさんにメールを送る。本の一部が無料で公開されているということは、Mさんも知らなかったとのことで、申し訳ないけど一度取り下げてもらう。

 18時過ぎ、知人はいつもより早くに帰ってくる。僕はウェブ連載に掲載する写真のレタッチ作業を続け、20時近くになって「晩酌」をする。団子坂下にある安い中華料理屋(青山餃子房というチェーン店。最近よく利用している)でテイクアウトしてきてもらった干し豆腐の惣菜や、焼き餃子、きくらげと豚肉の卵炒めをツマミに、TVerで『笑い飯 presents ひとりで60分』を観る。ロングコートダディの堂前が、無人のスタジオでひたすらモノボケする姿に圧倒される。すごい才能だし、すごい度胸だ。それに、いかにも自分の世界観に染め上げるようなボケではなく、(番組内でもイチローに例えられていた気もするけれど)淡々と、いろんな角度に打ち分けるように、飄々とボケ続ける。すごい。それと、一緒に見ている知人がたびたび言及していたけれど、小走りがキュートだ。