2月26日

 6時45分に目を覚ます。花粉が飛び始めてからというもの、外に干すのは朝10時ごろまでに留めていて、顔に直接触れるタオルなどは天気が良い日でも最初から部屋干しにしている。そうすると厚手の服は乾かしづらく、洗濯をあとまわしにしてカゴの中に溜まっていたので、今日は早めに洗濯機をまわす。白湯を飲んで、日記を書く。今日は日曜日で、昼はパスタを食べる日なので、いつもより気持ち早めに朝食の支度をする。納豆ごはん、インスタント味噌汁(長ネギ)、ししゃも3匹。

 午前中はS・Iのドキュメントに向けて、メモを取りながら資料映像を観る。知人は確定申告を代理でやってくれている。去年も言ったのに、「いくらの売上で、いくら源泉徴収されたのか」が登録されてないから、ぶちめんどくさい、とボヤいている(freeeというアプリで、口座に振り込まれた額を登録するところまでしかやっていなかった)。2時間ほどで作業が終わったようで、「マイナンバーカードはないんよね?」と尋ねられる。通知カードしかないはず、通知カードはそこの上から三段目の引き出しに――と伝えると、「え、マイナンバーカードあるじゃん」と言われる。ここ最近のマイナンバー絡みの話をニュースで観ながら、酷い話だ、絶対に自分は申請しないぞと思っていたのに、もう取得済みだった。E-TAXで申請するにはパスワードが必要で、その確認方法で少し揉めながらも、どうにか申告完了まで辿り着く。2021年に比べると売り上げが下がっているから、還付金も半額近くだ。

 僕がシャワーを浴びようとしていると、知人が昼食の準備を始める。シャワーを浴びている途中で「もう麺茹でていい?」と言われ、今日は何分茹での麺なのかわからないのでとりあえず「いいよ」と返事をしてシャワーを浴びていると、最後に顔を洗っているあたりで「もう出来るけど」と声をかけられる。シャワーを浴びた後も、患部に軟膏を塗ったり時間がかかるのに、どうしてそんなに急いで作り始めたのかと揉めながらも急いで服を着て、サバ缶とトマト缶のパスタを食べ始める。ひとくち食べてみると、口の中がびりびりする。これ、唐辛子入れたのと尋ねると、「3本入れたけど」と知人が言う。数口食べてみたけれど、最近は刺激物を避けて過ごしていたこともあるのか、やっぱり口の中がわりとシビれる。口がシビれるなら、大腸や肛門にも刺激を与えてしまうだろう。さすがにこれを食べると症状が悪化してしまいそうだ。どうして唐辛子を入れたのか、いやだって唐辛子は別に食べても大丈夫って言いよったやん、いや言うわけないやん大体退院してきた日に台所に唐辛子の袋が置かれてあるのを見て「なんで痔の手術から退院してきてんのに、これみよがしに唐辛子が置かれてんの」って言ったじゃん、と揉める。知人が「なんもうまくいかんね、今日」と小さく言う。

 パスタの半分を洗って、別のソースと絡めて温めて平らげようと、セブンイレブンでボロネーゼのソースを買ってくる。知人はパスタを半分平らげて、残りをタッパーに移していた。別の麺を茹でて、インスタントのソースをかけて平らげる。午後も資料を見て過ごす。『ザ・ノンフィクション』ではウクライナから避難してきた家族が取り上げられていた。15時からは競馬中継を横目に仕事を続ける。今日は中山記念だ。マイルチャンピオンシップで2着に入ったダノンザキッド(2番人気)を本命にするか、熱中症で生死の境を彷徨って8ヶ月ぶりの復帰戦に挑むヒシイグアス(5番人気)を本命にするか迷う。ただ、ヒシイグアスは厩舎がかなり控えめなコメントをしていることに加えて、細江さんがパドックの一押しにダノンザキッドを挙げていたので、そちらを本命にして8点ほど3連単を買う。ダノンザキッドは差し馬だが、スタートがきれいに決まり過ぎて前目からの競馬になり、4コーナーあたりでずるずる後退してゆく。1着はヒシイグアスだった。

 今日は便意がやってこないのと、知人が散歩をしたそうだったので、16時半から散歩に出る。根津神社はなにやら工事をやっていた。立て札によると、森鴎外の旧居を境内に移築しようとしているそうだ(今はどこにあるのだろう?)。早く飲みたいなあと思いながらバー「H」の前を通過して、不忍通りを渡り、気の向くままに歩く。そういえばと思い出して、あかじ坂を経由して、建設中のマンションの囲いを眺める。そこからよみせ通りに出て、今日の晩御飯は何にしようかと考えながらぶらつく。もう日が暮れかけているけど、なかなかの人出だ。酒屋の「のだや」を過ぎてもさらに北に進み、「あれ、もう通り過ぎたかな?」と思ったあたりで、おしゃれな花屋さんに辿り着く。せっかくだから部屋に花でも飾ろうと、ラナンキュラスと、なんだかと、2輪買い求める。晩ごはんの買い物にと「マルエツプチ」に立ち寄ると、ごっそり空になっている棚があり、なんだこれはと値札を見るとたまご売り場だ。図書館で予約していた資料を受け取り、家まで帰ってくる頃には18時半になっている。

 テレビをつけ、『ベスコングルメ』を眺めながら、借りてきた資料のうち、ページ数が少ないものはスキャンしておく。猿之助が浅草の寿司屋を目指して歩いている。東京でカウンターの寿司屋に入ったことはほとんどない(新宿にあった「吉野寿司」は坪内さんに教えてもらって、2回くらいだけ自分で入ったことがあるけど、それくらいだ。もう40歳になるけれど、寿司屋に通うような人生ではなかったということなのだろうか)。ほどなくして『ベスコングルメ』が終わり、『バナナマンのせっかくグルメ』が始まる。2週間前は手術と術後の生活に怯えながら、この番組を観ていた。

 僕はかぼちゃを煮付け、知人はセリのオイスターソース炒めを作り、スーパーで売っていた親鶏の炭火焼きを温めて「晩酌」。買ってきた花、1輪は「やんばるくいな」という泡盛の小瓶に挿してテレビの隣に飾る。「ヤンバルクイナとおんなじ色なんよ」と、飾ってある花を見て知人が嬉しそうに言う。バラエティ番組を観たあと、昨晩放送されたETV特集『死亡退院』観る。人工透析ができる数少ない精神病院で常態化する暴力。人間はこうなってしまうのだと思いながら観る。こうなってしまうのだから、それを踏まえた上で、うまい制度設計ができないのか、この世の中にはきっと賢い人たちがたくさんいるだろうに、とぼんやり考える。

 入院していた患者が死亡して退院する「死亡退院」の割合は、この日記を書いている今正確な数字を覚えていないけれど、かなり高い数値だった。それでもこの病院が「必要悪」になってしまっているのだと語る医療関係者のコメントも紹介されていた。この病院に入院させられた患者や、この病院で家族を亡くした遺族や、この病院に入院させられた友人を退院させようとする人の姿が、ドキュメンタリーの中で映し出される。その姿を見つめながら、画面上にはあまり浮かび上がってこない人の姿を想像する。取材に応じてコメントを寄せていた社会福祉学を専門とする教授は、「棄民」という言葉を用いていた。家族から見捨てられ、遺骨の受け取りを拒否される例もあるのだと、番組内では紹介されていた。

 番組の終盤に、院長を直撃する場面が短く放送される。それは自宅を車で出発しようとする院長を待ち構えて、その姿をカメラに収めたものだ。その車が映し出された瞬間に、隣で観ていた知人が「ぶち高級車のりまわしとるやん」といろめき立つ。この場面だけは少し、なんとも言えない気持ちになった。もしもコメントをとりたいなら、もう少し別のタイミングを見計らうだろう(車を運転している状況を直撃しても、コメントがとれる可能性はほとんどない)。そのカットは、「ここの院長はこんな高級車を乗り回している」ということを伝えるためのカットだった。

 ずうんとした気持ちになりながらちゃぶ台を片付け、布団を敷く。布団を敷きながらも、「ヤンバルクイナと同じ色なんよ」と知人は嬉しそうに花を見ている。今晩だけで5回繰り返している。布団に横になり、『今夜すきやきだよ』を観る。ようやく4話まで観た。いかにも「演技がうまい!」と言わせるような出演者はいないけれど、こういうドラマにおいて、演技のうまさというのはうるさく感じられるものでもあるのだろう(『孤独のグルメ』でゲストの俳優に熱演されてもうるさく感じられるように)。毎話、とても説明的に物語が進んでゆく。第4話の最後には、登場人物たちが肉まんを食べるシーンが映る。登場人物は3人、せいろで蒸された肉まんは5個。テーブルに置かれた小皿にお酢が注がれ、そこに醤油が垂らされる。肉まんになにかつけて食べる地域と何もつけない地域で分かれるよなと思うのと同時に、昨日の『ジョブチューン!!』で、王将の餃子を食べていた「一流料理人」たちは、誰も小皿に醤油を入れず、酢(と胡椒?)だけで食べていたことが思い出された。