3月6日

 7時過ぎに目を覚ます。コーヒーを淹れて、朝食をとる。インスタント味噌汁を買いそびれていたので、いつだか沖縄で買ったままになっていたもずくスープをつけた。朝からY.Fさんのドキュメントを書き進める。テレビで短いニュースが始まると、国会議員が懲罰に応じて謝罪するかどうかがトップで扱われていて馬鹿らしくなる。昼は冷凍食品の牛丼に卵を落として平らげる。14時半頃に原稿がほぼまとまり、そうだ、調べ物をしておかなければと思い立ち、国会図書館へ。赤と黄色と青の国旗が通りに掲げられている。調べてみるとルーマニアの国旗だ。卒論シーズンも終わったのか、図書館はわりと空いていた。羅臼に関連した雑誌記事を複写する。後ろに約束があるので全部を網羅することはできなかった。

 17時15分に国会図書館を出て、神保町に出る。いちどH社に寄り、荷物を置いたあと、近くの文具店へ。普通のサインペンはいくつか用意してもらっていたけど、せっかくデザイナーのTさんが紙を選び、色を選んで最初のページをデザインしてくださっているのだから、そこに文字を書くならちゃんとペンを選びたい(ただ、パッと署名を頼まれたときに、その場にあったペンでサインを入れたこともたくさんあるけども)。今回は銀色のペンを選んで、H社に戻り、100冊にサインを入れる。書くというより、形をつくる、という感覚にいつもなる。

 20分ほどでサインを入れ終えて、編集者のMさんと「浅野屋」に行き、乾杯。テレビから野球の鳴り物の音が聴こえている。ひときわ大きな歓声があがり、画面を見上げると、大谷がホームランを打ったらしかった。最近考えていることをポツポツ話す。編集の仕事はもうやらないのと尋ねられ、自分は編集には向いてないと思う、という話をする。ただ、自分が最初に仕事をした『e』誌のことは、いろんな人に話を聞いた上で記録しておきたい気もするし、論壇史の盛衰についても誰かに聞き書きしておいてほしいという気持ちがあるけど、誰もやらない気がするから、あくまで「歴史の一段面」として記録したい気はする、という話をする。その「一段面」というのをMさんは面白がってくれた。そして、正史として語られる歴史は正史としてあるけれど、自分の中にはそれとは違う歴史がある、とMさんは言っていた。

 それとは別に、最近聴いたラジオ番組の話あたりから、「生活の中にある感覚」みたいやものをいつか書きたい、と僕が話すと、佐内正史小沢健二の名前を挙げながらMさんは話を聞かせてくれた。そして、90年代にも「生活」に光が当てられていたところはあって、それはどこか「回復」のための生活という感じがあったけど、橋本くんの場合はそういう回路でもなさそうだから面白そう、と。僕が「いちど種田山頭火をちゃんと読みたい」と言うと、「いいね。俺も最近、久保田万太郎読んでる」とMさんは言っていた。テレビからまた歓声が聞こえてくる。大谷翔平がまたホームランを打っている。