3月17日

 6時過ぎに目を覚ます。展示で頒布するリーフレットを折り、展示に向けた文章を書き、11時に「U」に届けにいく。今日も帳場にはUさんの他にMさんの姿もある。昨日のひっつきむし、ちょっと劣化してたみたいで剥がれてきてるから、やっぱり両面テープで貼り直してもらったほうがいいかもしれません、とUさんに告げられる。まずはリーフレットを渡し、「ちょっと両面テープを買いに行ってきます」と伝える。通りの向こうのほうに組合長のAさんの姿が見えたので、後を追ったが見失い、電話をかけてご挨拶。市場の中に貼ってもらえるように、ポスターを何枚かお渡しする。せっかくだから中を見て行きますかと、中に入れてもらう。中に入ってみると、外の音はあまり聞こえてこなくて、不思議な感じがする。

「ちょうどうちの両親も事務所にいるはずですよ」と教えてもらって、Aさんのご兄弟がやっている会社の事務所に行ってみると、Aさんのご両親の姿があった。おかげで本が出せましたと、お礼を伝えると、「あい、ちょうどもらいもののお茶があるから、これ持って行きなさい」と冷たいお茶をもらった。メインプレイスまでレンタカーを走らせる。昨日は落ち込んですごすご帰ってしまったけれど、取り扱いがないのであれば、ポスターを渡して「前回扱っていただいた『市場界隈』の続編のような本を出したんです」と宣伝に行くべきだろうと、書店を再訪する。店員さんたちは忙しそうで、話しかけるタイミングを伺っているうちに、入荷したばかりの本の山の中に僕の新刊が数十冊入っていることに気づき、嬉しくなる。買い物客の波が途切れたところでお声がけして、ポスターをお渡しする。

 車でマチグヮーまで引き返し、ファミリーマートで展示のタイトルやまえがき的な文章をプリントアウトしたのち、「U」へ。ひっつきむしでくっつけておいた写真を剥がす。鞄の中で溶けて品質が劣化していたのか、壁にも、写真にもひっつきむしがベタッと残る。好意で譲ってもらったひっつきむしだったのに、「こうなるなら最初から買いに行っておけばよかった」と思ってしまって、自分の心の狭小さを感じる。しかし、写真の裏にひっつきむしが残ってしまうのはいいとしても、壁に残っているのは問題な気がする。そもそもひっつきむしの材質のことも何もわからないので、UさんとMさんに「これ、結構壁に残っちゃってるんですけど、これだとまずいですよね・・?」と相談し、Mさんに剥がしてもらう。そうやって作業をやっているところに、今回のグループ展に参加する方たちがちらほらやってくる。そのひとりに、「名前が同じになっちゃって」と声をかけられる。昨日準備をしていたとき、Uさんから、並べる冊子の中に、橋本さんの本とたまたま同じタイトルになったという方がいて、と説明はされていた。そのときは「そうなんだ」としか思わなかったのだが、今このタイミングになってみると「そんな偶然あるだろうか」と、ここでも心の狭さが露呈する。

 写真をどうにか貼り直すころには、もう14時近くになっている。「赤とんぼ」までタコライスを買いにいくと、ちょうど店主の方がいらっしゃっていた(最近はこどもたちにお店を任せていることが増えている)。おかげでどうにか本が出せましたとお礼を言うと、ああ、高橋さん、名刺ちょうだいと店主の方が言う。本が届いて、感激して電話をしようと思ったのだけど、もらった名刺をどこにやったかわからなくなって、連絡できずにいたのだ、と。もう、あんなふうにまとめてくださって、もういつ死んでも悔いはない、棺桶にもあの本を入れてもらいたいと言ってくださって、恐縮してしまうというか、僕は聞かせてもらった言葉を預かって活字にして配置しているだけの存在なので、恐れ多いという心地がする。

 レンタカーの中でタコライスを頬張って、Googleマップで「書店」と検索する。なんとなく端から順にまわろうと思い立ち、ある書店を訪ねる。やはり僕の本は並んでいなかったけれど、ポスターを渡して、こんな本を出版したんですと伝えるだけ伝えようと思い、様子を伺う。レジにはふたり店員さんがいらっしゃる。おひとりはお客さんから注文の依頼に対応しているようだ。今このタイミングでお声がけしてしまうと、レジにお客さんがきたとき対応できなくなってしまうから、今は避けるべきだろう。15分ぐらい待って、注文の依頼をされていたお客さんも帰り、レジの行列が途切れたところで、ご挨拶する。「お忙しいところ失礼しました」と帰り際にお詫びをすると、「いえいえ、とんでもない」と言ってもらえて、ほっとする。誰かに時間を割いてもらうということに、申し訳なさをおぼえる。

 次に訪れた同系列の書店にも、僕の本は並んでいなかった。ここでもしばらくタイミングを見計らって、ご挨拶する。店員さんはとても親切に対応してくださって、他店の在庫も確認してくださった。その上で、系列店だとどこも現在は取り扱いがないこと、取り扱いに関してはある店舗のスタッフが統括していることを教えてくださって、「一軒ずつ回られるより、その店舗を訪ねていただくといいかもしれません」アドバイスをしてくださった。それならばと、高速道路を走り、その店舗に向かった。店員さんにお声がけして、「ライターをしているものなんですけれども、最近本を出版いたしまして、そのご紹介をさせていただけたらと思ってお邪魔したんです」と伝えると、個人出版のもとは取り扱っていないんですと店員さんが言う。本の宣伝ということなら、普通は出版社の人間がやってくるところだから、著者が売り込みにくるというのは個人出版だと受け取られたのだろう。出版社から出ている本だということ、もとは琉球新報の連載であったこと、まだ調整中ではあるけれどお昼のテレビにも出演予定があることをお伝えする。さきほどの店舗で聞かせてもらった、仕入れを統括されている方は今日はご不在とのことだったので、A4サイズのポスター(本の情報が書かれてあるもの)だけお渡しして帰途につく。

 車を走らせていると、沖縄の固定電話から着信があり、ハンズフリーで通話する。さきほど対応してくださった店員さんから、「テレビに出演されるとおっしゃっていたのはいつでしたっけ」と確認の連絡だった。まだ調整してもらっているところで確定ではないんですけど、このあたりの方向で進めてもらっています、と伝える。電話を切ったあとで、もし出演の話が立ち消えになってしまったらどうしよう、と不安になる。編集者のMさんから「出演依頼がありました」と連絡があったのはもう1週間近く前で、もちろん出演するので、先方に連絡先を伝えてくださいと伝えておいたのだが、その後連絡はない。ただ、今日の朝に組合長のAさんに会ったときにも、「番組のUさんという方が、橋本さんに取材をしたいと言っていたので、連作先を伝えておきましょうね」と言われていたので、出演はできるのだと思うのだけれども……。「テレビに出るというから仕入れたのに」と言われたら、どうしよう。まあそのときは「その損害分は支払います」と答えようと思いながら、車を走らせる。もう夕暮れ時だから、道路は渋滞していた。そういえば『市場界隈』のときも取り扱ってもらえなかったなと思い返す。「この本はぜひ仕入れなければ」と思ってもらえなかったのか、それともなにか別の事情があるのだろうかとぐるぐる考えながら、のろのろ車を走らせた。

 18時近くになって、パルコシティにたどり着く。書店を覗くと、『市場界隈』は棚にまだ数冊挿してくださっていて、『水納島再訪』も平積みしてくださっているけれど、新刊は在庫がないようだった。お客さんの列が途切れるのを見計らって、店員さんに声をかける。マネージャーの方に取り次いでくださって、ご挨拶。「もう、すぐ注文かけます」と言ってくださって、ほっとする。『市場界隈』のときに挨拶に伺ったときのことを思い出す。そのとき対応してくださった方も、「まだ入ってきてないんですけど、うちも入荷するつもりです。ジュンクさんがツイッターに画像上げられてましたけど、すごいドーンと並んでましたね」と言ってくださったのだった。給油してレンタカーを返し、「小禄青果店」へ。昨日もお店に伺っていたのだが、話を聞かせてもらった悦子さんは不在だったので、あらためてお礼を伝える。ご本人も、お子さんたちも、表紙になったことを喜んでくださっていてほっとする(もちろん事前に「表紙にしたい」と許諾はいただいていたのだけど、許諾を得られるかどうかと、喜んでもらえるかどうかは別問題だ)。

 「魚友」の外の席に座り、生ビールを飲みながら市場を眺める。ラジオが流れていて、県知事が出演している。ラジオのDJをされていただけあって軽快なしゃべりだ。残したい沖縄はと問われて、ちむぐくるという言葉を使って知事が話をしている。「MIYOSHI SOUR STAND」に流れ、たんかんサワーを1杯と、赤ワインを2杯。ここは市場の真向かいにある。ようやく市場がオープンですねと伝えると、「1年間、自分でもよく頑張ったと思います」と店主が笑う。これでようやく通りに活気が戻ってくるだろう。ここは市場の扉にも近く、「中の様子をのぞいてみたら、ちょうどエスカレーターが降りてくる扉だから、市場を訪れたお客さんがうちに流れてきてくれるんじゃないか」と期待を寄せていた。

 今日も「パーラー小やじ」にと思っていたが、あいにく満席だ。ただ、店主のUさんの姿を見かけたので、挨拶だけしておく。昨日Sさんと旅行客の方に渡していたポスターは、きっとSさんが「ほんまは僕らじゃなくて、お店に渡したかったんだろう」と気を回してくださったのだろう、2枚ともお店に張り出してくださっていて、「本、送ってくださってありがとうございます」と店主のUさんが丁寧にお礼を言ってくださるので、かえって恐縮してしまう。路地を抜けて、「末廣ブルース」に入り、レモンサワーを飲んだ。