3月26日

 朝から原稿を練る。昨日、三崎まで電車で移動しているあいだは、「解説」を依頼されていた本を読み返していた。「読み返していた」というか、本を読みながら線を引いた箇所を抜き書きし、それをプリントアウトしたものを持ち歩いて、どんなふうに「解説」を書いたものかと考えていた。昨日電車に揺られながらメモ書きをしておいたのだが、自分の字なのによく読めず、解読しながらあらためて原稿を練る。昼は知人の作る鯖缶とトマト缶のパスタ。ビールを1本と、赤ワインを1杯。その影響で昼寝をしてしまい、気づけば15時だ。競馬中継を観て、馬券を買う。本命に選んだメイケイエールは、とても気性が荒く、今日は序盤からかかって馬群に沈んだ。不良馬場で走る気を無くしたのもあるのだろうか。

 18時過ぎ、知人と連れ立って散歩に出る。冬に逆戻りしたような肌寒さで、玄関先ですぐ引き返し、マフラーを巻く。やなか銀座の「E本店」に行き、生ビールを2杯注文し、千円札を渡す。お店の方から先日のちんすこうのお礼を言われた上に、お店のお母さんが「今日はご馳走したげる」と言って、お釣りを渡すふりをして500円玉をふたつ渡される。申し訳ないような気もするが、突き返すわけにもいかず、ご馳走になる。せめてものお礼にもう一杯注文し、テイクアウトして谷中霊園で桜を眺める。知人は今年も「ほら! あそこ! ふかふか!」と、ふかふかに見える桜を探しては「ふかふか!」と声をあげる。なんとなくの記憶を頼りに歩き、「たしかこのあたりだったような」とネットで検索すると、そこから十数歩歩いたところに広津和郎の墓があった。次回からはもう、何も見ずに辿り着けそうだ。散文精神、散文精神と頭の中で繰り返しながらお墓にお辞儀をする。

 ぐるっと歩いて根津に出て、「海上海」でテイクアウトの注文をしておいて、バー「H」へ。これまでずっとマスク姿でカウンターに立っていたHさんも、今日はもうマスクを外していた。そうなると、こちらがマスクをつけたままでいるのも申し訳ないような気持ちになる。僕と知人以外は一人客だったこともあり、マスクを外し、静かにハイボールを飲んだ。帰り道、「やっぱり、バーとなると、ずっとマスクをつけて接客ってわけにもいかんのやろうしな」と言うと、「そりゃそうやろ、マスクなんか外したかったやろ」と知人が言う。出来上がっていた料理を受け取って、家に戻って晩酌をする。