朝7時に起きる。入念にストレッチをして、数日ぶりでジョギングに出る。この3日間、時間を見つけてはストレッチをして過ごしてきたが、ようやく走っても平気そうな状態になってきた。これからは走ることだけでなく、身体を休ませることも考えなければ。不忍池を眺めて引き返す。豆腐とネギの味噌汁を作って朝食をとり、新聞に目を通す。「パリ中心部 刃物で殺傷」、「一家6人 自爆テロ」、「米大使館 きょう移転」という見出しが一面に並んでいる。

 午前中は資料に目を通し、原稿の構想を練る。昼、自転車こいで東大正門前に出て、A・Tさんと待ち合わせ。うちから自転車で5分の距離だということがわかったので、この界隈で働くAさんと今度お昼でもと約束していたのだ。「ルオー」に入り、カレーライス。うまい。一緒にTさんの授業を受けていたAさんに、先日の還暦をお祝いする会の話をしたり。食後のアイスコーヒーを飲んでいると、「橋本さん、近所におでん屋さんってあります?」とAさんが言う。うちの近所で観たことはないけれど、たしかにあちこちで見かける。清澄白河の「SNAC」という小屋の隣におでんのタネを売る店があり、そんな店が普通の商店街に存在するのかと驚いた記憶がある。

 広島の田舎町に生まれ育った僕は、コンビニができるまで、おでんというものを食べたことがなかった。ちび太が手に持っている姿を見て、あれがおでんというものらしいと知っていたけれど、おでんを食べる文化などなかった。ちび太が食べていたぐらいだから、もんじゃ焼きのように、昔はこどものおやつにもなっていたのだろう。しかし、Aさんの言う通り、酒場ならともかくおでんを店頭で売るだけで経営が成り立つというのはちょっと不思議なことだ。そして、西日本出身の僕だけでなく、関東で生まれ育ったAさんでもおでん屋というのは特異に見えるのだな。

 また飲みましょうと約束をして、店の前で別れる。親になった友人を酒に誘うには難しいけれど(難しいというより、誘っていいのかどうか、誘ったとしてどれぐらいで切り上げるべきなのか、塩梅がわからないけれど)、お昼であればあまり気にせず誘える気がする。アパートに戻ると、知人が帰ってきていた。自宅で作業をすることにしたのだという。僕は資料を読んで、メモを書き出す。それをもとに、「たんけんぼくのまち」よろしく原稿の設計図を書いた。

 16時、知人を連れてアパートを出る。展示に向けたプロフィール写真が必要だと言われていたのだが、「プロフィール写真」と呼べるほどの写真は手元になかった。雑誌などで巻末のライター一覧に載せる場合、証明写真で撮ったものを送付している。一昨日Aさんと飲んでいたときもその話になり、僕が某雑誌で証明写真を使っているのを見て、「『橋本さん、これはないで』と思った」と言われてしまっていた。証明写真というのは、さすがに展示のプロフィールにはふさわしくないだろう。いつかは誰かにキチンと依頼して撮影してもらいたいけれど、今回の展示に向けたものは急ぎで必要なので、知人に撮ってもらうことにする。

 当初はアパートの隣にある酒屋を背景に撮影するつもりでいた。その酒屋の佇まいが気に入ったことも、今の部屋に引っ越すことにした理由の一つだったからだ。でも、下校時間とあって人通りが多く、なかなか撮影するタイミングを見つけられず、そうしているうちに酒屋のご夫婦に若干不審がられてしまったので、ここでの撮影は諦める。それならばと夕やけだんだんまで歩くも、逆光で真っ暗になってしまう。結局、夕やけだんだんの近くの路地に入り、缶ビール片手に写真を撮ってもらう。

 せっかくだから、谷中ぎんざにある酒屋の軒先で飲んで行くことにする。今日もパン屋のお兄さんの姿があるが、邪魔にならないように声はかけずに済ませる。琥珀エビスで知人と乾杯して、しばしぼんやり。17時のチャイムで席を立ち、スーパーで買い物をして帰る。しばらくお互いに仕事を進めて、19時過ぎに飲み始める。ツマミは谷中ぎんざで買ってきた焼き鳥だ。激安の焼き鳥屋さんで、休日はいつも大行列の店だ。今日は平日とあって並ばずに買えそうだったので、試しに買ってみたのだが、値段のわりに食べられる。

 飲みながら『あなたには帰る家がある』を最新話まで観る。玉木宏中谷美紀が、ユースケ・サンタマリア木村多江がそれぞれ夫婦で、玉木宏木村多江が関係を持ったところから始まるドラマなのだが、シリアスにやるとえぐみが出るという配慮からか、玉木宏はとことんノーテンキなキャラクターを演じる。昭和の喜劇役者とまではいかないが、案外悪くない演技だ(それに比べて、フジモンのハマらなさ)。何よりすごいのは中谷美紀で、こういう姿こそ「涙をたたえる」と形容するのだろうと思ってしまうほど、涙をたたえている。表面張力を感じるほどの涙で、ここぞというタイミングで落涙する。あそこまで行くと技術的な問題なのだろうな。今日も主題歌を聴いて器を叩きかけてしまい、知人に「乞食が来るで」と怒られる。

 最新話まで観終えたあとは、Amazonプライムビデオで『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観た。23時過ぎ、ひとりでふらりと飲みに出る。10分ほど歩けばバー「H」にたどり着ける。引っ越して半年以上経つが、こんなに近くに住んでいるのかといまだに嬉しくなる。珍しく他にお客さんがいなくて貸し切りだ。ハイボールをいただく。同じ名前で呼ぶのはおこがましいのではと感じるほど、家で飲むハイボールとはまったく違う味で、本当に絶品だ。先日の還暦をお祝いする会のことを振り返る。2杯目はシャルトリューズソーダ割をいただき、帰途につく。誰もいない根津神社を歩いていると、舞台のような灯りに行き当たる。