2014-10-01から1ヶ月間の記事一覧

マーム同行記26日目

朝起きると、町は霧に包まれていた。今日はアンコーナでは1夜限りとなる公演が行われる日だ(だから文通はお休みする)。8時15分に駐車場に集合して、全員一緒に劇場に向かった。 劇場に到着するとまず、映像の仕事のある実子さんをのぞいた役者の5人、それ…

マーム同行記25日目

朝9時、1階に下りていくと、荻原さんと波佐谷さんがキッチンにいた。荻原さんは「今日はここで書こうかな」と言って、ペンと紙を広げている。僕は近くにあるコインランドリーに出かけることにした。波佐谷さんもコインランドリーに出かけてきたらしく、「今…

マーム同行記24日目

朝9時、キッチンにいた荻原さんに部屋の鍵を渡す。皆は二人一部屋で過ごしているけれど、僕だけ一人部屋になっている。今日は集中して手紙を書いてもらうべく、部屋を貸すことにしたのだ。荻原さんが手紙を書いているあいだ、僕はキッチンでオニオンスープを…

マーム同行記23日目

朝8時に起きる。午前中は部屋で日記を書いていた。外に出てみると、荻原さんは庭に並ぶテーブルで手紙を書いていた。ここアンコーナに滞在する4日間、荻原さんと僕は文通をしてみることにしたのだ。 きっかけは、ポンテデーラの夜だった。 「アンコーナにい…

マーム同行記22日目

気づけば電車は海沿いを走っていた。本当に線路のすぐに海岸線がある。海は綺麗な碧色とも言えるけれど、空が曇っているからだろうか、鈍く、重い色をしている。ここはアンコーナという街だ。今日の朝にポンテデーラを出発して、イタリアを西から東に横断し…

マーム同行記21日目

今日は1週間振りのオフだ。ただ、朝9時半に駅で待ち合わせているから、あまりのんびり寝ているわけにもいかない。腕時計を確認すると8時半だ。「ああ、ちょっと急いで支度をしないと」と思ってiPhoneを手にしてみると、そこには7時半と表示されていた。昨日…

マーム同行記20日目

14時、今日も稽古が始まった。今日は冒頭のシーンからではなく、昨日の公演で気になったシーンを返していくことになる。 「昨日はぶっちゃけ、前半がもたついた感じがあるんだよね」と藤田さんは話を始めた。「学校の休み時間のシーンとかも、もっとワーッと…

マーム同行記19日目

13時半、劇場に到着してみると、聡子さんが舞台でストレッチをしていた。実子さんは釣りのシーンを一人で練習している。客席に座っていた波佐谷さんは「まだ9時間もあるのか。既に眠いな」と独り言のようにしてつぶやいている。と、そこに尾野島さんが入って…

マーム同行記18日目

19時を過ぎる頃には、外はすっかり暗くなっていた。今日は祝日だったのか何なのか、劇場の前の道には数百メートルにわたってずうっと屋台が出ていた。トラックを改装した屋台の列。衣服や雑貨を売る屋台は早々に撤収していて、ホットドッグを売る店だけが残…

マーム同行記17日目

朝9時、ホテルを出て劇場に向かった。本当に雲一つない青空が広がっている。心地よい風が吹いている。9時15分に劇場に着いてみると、聡子さんが劇場の上手側にある扉を開けているところだ。今日は仕込みの日だから、皆マスクをしている。しまった、僕も大量…

マーム同行記16日目

8時20分、ホテルを出て駅を目指す。雨の匂いがする。どうやら昨晩雨が降ったらしかった。8時半を少し過ぎた頃に駅に到着すると、もう皆は駅で待っていた。少し空気がぴりついていて、僕が遅れてしまったせいだろうかと所在ない気持ちになる。 「今、良くない…

マーム同行記15日目

今日は移動日だ。朝、少しだけ街を散歩する。メイナの街は、これまであまり歩いていなかった。皆の宿舎と僕のホテルのあいだに墓地があって、皆の宿舎で大富豪をした夜更けの帰り道、奥に置かれたマリア像が赤い光に照らされていたこと。パブロと散歩したと…

マーム同行記14日目

今日は一日オフだけれど、朝8時半にホテルの前に集合する。今日は皆でマッジョーレ湖観光に出かけるのだ。 もちろん、マッジョーレ湖を眺めるだけなら、ここメイナでも可能だ。単に湖を眺めようということではなく――ワークショップに通い始めた初日から、気…

マーム同行記13日目

今日はいよいよ、4日間やってきたワークショップ発表会の日だ。いつもは18時までのワークショップだけれども、発表会は夜になってからということもあり、いつもより1時間遅い11時半にメイナを出発した。13時、今日も皆揃ってアップをして、ワークショップが…

マーム同行記12日目

朝、ホテルの前であゆみさん、実子さんと待ち合わせ。今日は念願かなって、ホテルで飼われている犬のパブロと散歩に出かけるのだ。 散歩に行けると決まったのは、昨日の朝のこと。ホテルで朝食を取っていると、パブロが僕のテーブルに近づいてきた。宿の人が…

マーム同行記11日目

眠っているあいだに、夜鳴きそばの夢を見た。僕がウトウトしているところに、父が「おい、倫史。夜鳴きそばが来とるで。食べに行かんでええんか」と話しかけてくる。遠くでチャルメラが鳴るのが聴こえる。僕はもう眠たくって、食べようかどうか迷いながら、…

マーム同行記10日目

朝8時に起きる。1階のロビーに降りてみると、朝食が並んでいる。クロワッサンと、甘そうなクッキー。僕はカフェ・アメリカーノだけ注文して、同じ方向ばかり見ていた。僕が泊まっているホテルには大きな白い犬がいる。名前はパブロ――パブロ・ピカソの「パブ…

マーム同行記9日目

朝8時、ホテルのロビーに集合すると、ほどなくしてバスがやってくる。8時半に出発の予定だったけれど、送迎バスが意外と大きく、ホテルの前に長時間停めておくことができなそうなので、皆でいそいそと乗り込んだ。8時21分、バスは次の土地に向けて走り出した…

マーム同行記8日目

朝9時、ホテルで聡子さんと待ち合わせ。ホテルは坂の途中にあるので、街を見渡せる場所を探して坂をのぼっていくことにする。予想以上に急な坂を歩きながら、ぽつぽつと話をする。 ――今回、皆とは別にサラエボの街を歩いたりもしたんですか?聡子 皆で歩いた…

マーム同行記7日目

朝10時、「ホテル・ボスニア」に出かける。ロビーには既に聡子さん、藤田さん、門田さんがいた。 「橋本さん、昨日ちゃんと帰れました?」 「帰れました、帰れました。何でですか?」 「橋本さん、昨日めっちゃふらついてたじゃないですか。なのに、橋本さん…

マーム同行記6日目

日記を書いているうちにお昼になってしまった。午後1時、ホテルのロビーで尾野島さんと待ち合わせて街に出かける。 「午前中は何してたんですか?」と僕。 「洗濯とかしてました」と尾野島さん。 「ここ、コインランドリーみたいなのはあるんですか?」 「い…

マーム同行記5日目

今日もまた、朝8時半にホテルのロビーに集合する。段々リズムがなじんできた。朝食会場にいた藤田さんが、「はあ、緊張する」と話している。「イタリアとはまた違った緊張感がある」 今日は公演初日だ。雲一つない青空が広がっている。会場に到着すると、ゆ…

マーム同行記4日目

今日もまた、朝8時半にホテルのロビーに集合する。バスのほうはほぼ時間通りにやってきたけれど、もう1台のクルマは遅れるらしかった。亜佑美さん、荻原さん、それに僕の3人はもう1台のクルマに乗ることにして、ホテルに残る。ホテルの隣にある売店はもう営…

マーム同行記3日目

朝8時半、ホテルのロビーに集合する。迎えのクルマは少し遅れているらしく、ソファに座って待機する。あんまり静かなものだから、「このメンツ、僕がいなかったらどうなってたんだろう」と藤田さんが笑っている。藤田さんは最初、『小指の思い出』の公演が終…

マーム同行記2日目

空が曇っているのか、着陸態勢に入ってからも窓の外は白い雲で覆われていた。雲が途切れると、すぐそこに現実の街が見えてきてギョッとする。赤い屋根をした可愛らしい建物が目立つ、のどかな風景が広がっている。朝8時、雲が途切れて20秒ほどで飛行機はボス…

マーム同行記1日目

子供の頃から、台風の日は心がざわついていた。朝、テレビをつけると台風中継をやっている。ちょうど静岡に上陸したところだという。数日前から「今年最強クラス」と注意が呼びかけられていただけあって、もう既に関東にもその影響は出始めているようだ。各…

取り扱い店

10月1日より、東京芸術劇場プレイハウスで上演される「小指の思い出」の会場でも販売を予定していますが、お取り扱いいただける書店を募集しています。取り扱い条件は以下の通りとなっております。お取り扱いを希望される場合、hstm1982@gmail.comまでご連絡…

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『Firenze,2013』は、通販に対応しております。通販のお申込(ご予約)はこちらのURLから承っております。お支払い方法は郵便振替と銀行振込(三井住友銀行)がご利用いただけます。送料は無料です。 http://form1.iip.jp/?id=hstm1982

『Firenze,2013』まえがき

「今っていうのは春で、そして、朝なんだけど。春といえば、出会いと別れの季節、らしい。てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」 この言葉を、一体何度耳にしたこ…

10月1日に『Firenze,2013』という本を発売します。マームとジプシー初となる海外公演を追ったドキュメントです。価格は1500円(税込)です。 『Firenze,2013』 著・橋本倫史 発行・HB編集部 1500円(税込) 四六判 224ページ