通気口がごおごお音を立てていて、何度か目が覚めた。9時過ぎにようやく起きて、トーストを食す。ヨーグルトが切れていたので、納豆と卵と青ネギを混ぜて食べた。納豆も卵も青ネギも知人が買ってきたものだったので少し怒られたが、これで今日も大腸を健康に保てるはずだ。知人はここ数日はが痛むらしく、歯医者に出かけて行く。45分ほどで帰ってきたのだが、親知らずを抜いたらしくふがふがしたしゃべりだ。親知らずってそんなに早く抜けるものなのか。よほど腕のいい歯科医が馬場にいるのだろうか?

 麻酔が聞いているせいか、知人はしばらく横になっていた。僕は朝から『S!』誌の構成を進める。昼、長袖シャツでスーパーに出かける。これでも暖かく感じるほどの陽気だ。今日は春の匂いがする。実際の匂いではなく、湿度と温度が鼻の奥を刺激して匂いのように感じるのだろう。

 和風ハンバーグ弁当を買って食べたのち、もう少し構成を進めておいて神保町に出る。今日は16時から神保町試聴室で柴田聡子と井手健介のツーマンライブがあるのだ。最近になってようやく『井手健介と母船』を購入し、ずっと聴いている。お酒は我慢しなければと思っていたのだが、やはり楽しく、ビールを飲んでしまった。これは柴田聡子と井手健介二人に共通することだが、どこか素っ頓狂でチャーミングだ。そしてささやかな日常を淡々と歌っているように見えるのだが、ひょっとした瞬間におそろしさを感じる。

 この日、僕はユニクロのしゃかしゃかしたパーカーを着ていたのだが、そんな素材の服を着ている人は他にいなかった。いや、もちろん化学繊維の入った服を着ている人だっていただろうけれど、一人だけ場違いな人間が混じってしまったような気持ちになった。何列か前のお客さんが、ハートランドビールを持つのにハンカチで押さえていた。そのほうが手も濡れなければビールもぬるくならない合理的な振る舞いではあるのだが、僕はこの人たちが大事にしていることを一瞬で踏み荒らしてしまうのではないかという気持ちになった。

 ライブが終わる頃になって知人から「ごはん食べたい」とメールが届く。とりあえず雑司が谷で行われているイベントで待ち合わせることにして、『S!』誌の構成をメールで送信したのち都営新宿線新宿三丁目に出て、「副都心線のところで待ってる」と連絡する。知人は新宿で手帖を買うと言っていたので連絡してみたのだが、「もうJRに乗ったけど」と知人から返信がある。雑司が谷に行くのにどうしてJRに乗ったのだろうと不審に思いつつも雑司が谷に出て、イベント会場へと向かった。

 会場には見知った顔があった。会うなり「読んだよ、ドキュメント」と言われて嬉しくなっていたのだが、今思えばそれ以上は何も言われなかった。その一言しか言われなかったということは、特に面白くもなかったということか、本当は読んでいないかのどちらかだろう(しかし、どうして今回の原稿にはこんなにナーバスになっているのだろう)。なかなか知人がやってこないのでメールを送ると、「家でごはん食べてる」と返ってきた。

 連絡が行き違ったきっかけは、知人から「今日は酒飲めないけど」と返信があったことだ。それじゃ意味ないじゃんと僕が返したことで、知人は「一緒にごはん食べないのか」と受け取って、家に帰ったのだろう。しかし、どうして雑司が谷の待ち合わせまでキャンセルにされたのかと腹立たしくなり、知人に暴言を送りつけてしまう。知人以外に暴言を吐いたことはないのに、どうして知人に吐いてしまうのだろう。幼稚園児がスーパーで駄々をこねているのと同じレベルだと思う。他の人はともかく、知人には意図を汲んでいて欲しいと思ってしまう。ただただ幼稚なのはわかっているのだが。

 知人とは結局、近所の酒場で待ち合わせることになった。知人はジャスミン茶を、僕は榮川を飲んだ。春に会津を訪れたときに飲んだ酒だ。今日はこんな陽気だったので、知人と一緒に季節のものが食べたかったのだ。とはいえ、今日が暖かかったからといって春の食材があるわけもなく、菜の花のおひたしやネギの卵焼きなど、冬の味を食す。ただ、鯛の刺身はとても美味かった。最後に恒例のパクチー焼きそばを食べて、アパートに戻る。