午後、ビックボックス脇の道を歩いて新宿へと向かう。諏訪通りにぶつかるあたりの風景は、ちょっと広尾か六本木のようになってきた。ここ数年、タワーマンションの建設が進められてきたのだが、それに付随した建物が六本木のツタヤだとかテレ朝社屋に似ている。まずは「紀伊國屋書店」(新宿本店)をのぞき、1階で雑誌や新刊本を数冊購入する。『小説現代』、坪内さんの「酒中日記」にノンアルコールビールが数度登場する。この時期に体調を崩されていたのだろうかと思って読み進めていくと、日本酒を1升飲んだ記述が登場してホッとする。

 歩き疲れたので「お多幸」に入り、熱燗を飲んで一息つく。明るいうちから営業しているとは知らなかった。わかめ、シュウマイ、大根、ちくわぶ、とりつくね、それに春の天ぷらを注文する。近くの席にいる団体客が大声で騒ぎ続けていて、店員さんたちが眉をひそめている。一人は完全に泥酔していて、呻くように歌をうたっている。最初は「ヤバい集団かな」と思っていたけれど、よくよく聴いてみると歌っているのは「今夜はブギー・バック」だ。しばらく様子を眺めていた知人は「ただの金持ちでしょ」と言う。「知り合いの金持ちはだいたいああいう飲み方する」と。

 ほろ酔い気分で「紀伊國屋書店」(新宿本店)に引き返す。今度は2階の棚をじっくり眺めてゆく。知人に目をやると、棚ではない方向に目を向けている。ふと、香水の匂いが漂っていることに気づく。この香水は――と知人の視線の先に目をやると、ある友人がいた。新宿で偶然誰かに会うのは今年3人目だ。彼女は何かから自分を守るようにして、いつも香水かお香の匂いをまとっている。買い物を終えると、新宿三丁目にある中華「エイト」で紹興酒を飲んだ。ツマミとして注文したのは干し豆腐のラー油あえだ。「これ、コンビニで出せば売れるのに」と知人が言う。糖質も低くヘルシーで、それなりに食べ応えもある。コンビニで出せばたしかにヒットしそうだが、中華料理屋――それも東北地方の料理を扱う店――でしか見たことがない。

 今日は深酒をせず、早めに「エイト」を出る。「すてきなもんが欲しい」と知人が言うので、伊勢丹に入ってみたはいいが、買いたいは見当たらなかった。買えるような値段のものも少ないのだが。デパ地下に行ってみると、閉店間際とあって結構値引きされている。洋風の惣菜盛り合わせと風月堂のアップルパイを2つ買って、大事に抱えて山手線に揺られて買える。ある記事の原稿料が早々に振り込まれたおかげで、贅沢に過ごしてしまっている。