8時過ぎに起きる。まだ眠そうな知人を起こして、搬出を始める。今から10年前の2007年7月20日、初めて原稿料が振り込まれた。対談の構成3本ぶんの原稿料だ。振り込まれるまで原稿料が知らされていなかったのだが、それが意外と高額だったことで嬉しくなり、その日のうちに友人のA・Tさんを誘って東急ハンズ(新宿店)に出かけたことをよく覚えている。初めての原稿料で買ったのはソファーベッドだ。あれから10年が経ち、ソファ〜ベッドはぼろぼろになった。このソファーベッドはもう捨てなければ。7月に入ったあたりから、そんな思いに取り憑かれていた。

 一つには現実的な理由もある。ぼろぼろであるだけでなく、僕は普段ソファーベッドに腰掛けて仕事をしている。そのせいでどんどん身体は歪んでいる。この一ヶ月間は整体に通っていて、「根本的に姿勢を改善するためにはソファーベッドを捨てるしかない」と思っていたのは理由の一つだ。でも、それ以上に、「もう10年経ったのだから、現状とは別れなければ」という思いに駆られているということのほうが大きい気がする。今、「もう10年経ったのだから」と書いてしまったけれど、10年という節目に強い思い入れを持っているわけではなく、いま現在の気持ちとして、違う場所に向かわなければという気持ちに駆られていることがある。

 ソファーベッドなので、運び出すのは一苦労だ。運び出そうと力を入れると、負荷がかかってソファがベッドに、あるいはベッドがソファに変形してしまう。なんとか玄関先まで出し、エレベーターに乗せ、外に出す。戻ってみると部屋はずいぶん広くなっている。昨晩知人と一緒に『水曜日のダウンタウン』を観たのが、あのソファでごろごろする最後の時間だったのだなあ。昨晩のうちに撮っておいた記念写真を眺める。今日からはどうやってテレビを眺めればよいのだろう。

 昼、玉子粥とひじきの煮物、それに納豆を食す。15時、池袋の整体へ。少しずつ姿勢が変わってきている気がする。一旦帰宅したのち、テープ起こしに取り掛かる。19時半、高円寺の円盤へ。奇数月の月末木曜のお楽しみである「うたう見汐麻衣」(vol.03)。冒頭の「エンドロール」の歌詞が沁みる。何度も聴いたことがあるうたであるはずなのに沁みるのは、僕自身の心持ちのせいだろう。しかし、どうすればこんなにひとりきりの境地で言葉が書けるのだろう。この企画はカヴァーを歌う企画であるのに、こんな感想を抱くのは失礼かもしれないけれど、「エンドロール」が一番印象に残る。それから、「自分の曲だと言い張って歌えるようになるまで歌い続けようと思っている」と語って歌い出した曲も印象的だ。もちろん何度も聴いたことがあるけれど、今日は特に印象に残る。なぜだろう。オリオンビールを3杯、泡盛を1杯。

 ガード下の居酒屋の前で、あまりの暑さにへたっている犬を――かつて散歩をしたことがあり、僕が触れたことのある3匹の犬のうちの1匹であるゴールデンレトリバーを――にんまり眺めたのち、「コクテイル」へ。今日はあまり体調が万全ではない気がするので、ハートランド1杯だけ。店主のKさんに『月刊ドライブイン』(vol.03とvol.04)手渡す。帰り道にLINEを確認すると、知人から「コロンするところがねえ」とメッセージが届いている。昨晩ソファーベッドと記念写真を撮っているときも、知人は「まだ使えるやろ」と名残惜しそうだった。さぞ残念がっているのだろうと思って帰宅してみると、卓袱台とクッションをかつてソファーベッドがあった場所に配置して、「旅館のテラスみたいやろ」と嬉しそうにしている。