7時過ぎに起きて、ジョギングに出る。不忍池を眺めて引き返す。帰りに「大平製パン」のたまごドッグと、「やなか珈琲」で今週のおすすめの豆を買い求める。午前中はアパートの目の前にある小さな公園に出かけ、『不忍界隈』の原稿に赤を入れてゆく。太陽にジリジリ焼かれる。アパートに戻り、最後のひと段落を書き終えたところで、ふと昨晩の知人の言葉が思い出され、「橋本節ってどういうこと」とLINEで問いただす。「ドライブインでやってたことを近所でやってるんだなって感じで、新鮮味はないじゃん」と知人が言うので、喧嘩になる。新鮮味もくそもあるか、今は毎回違うことをやるよりも、自分のスタイルを知ってもらう時期だろと反論するが、暗くなる。

 昼、書き終えた原稿を持って、取材させてもらったお店へ。修正したほうがいい場所があれば修正しますのでと伝えて、読んでおいてもらえるようお願いする。昼、焼きそばを食べてアパートを出る。ロケをしている芸人さんを見かけ、心の中では小躍りしたい気持ちに駆られつつ、ぶすっとした表情ですれ違う。谷中ぎんざの酒屋で生ビールを飲みながら、「ドライブイン」展に向けてキャプションを考える。2杯ほど飲んだところでアパートに戻り、考えたテキストをメールで送付。夕方、新宿・思い出横丁「T」。先日渡した個展のチラシを貼ってくださっていて嬉しくなる。チューハイと鰯の梅煮をいただきながら、「待つ」と「酒ぎらい」を読んだ。

 19時、三鷹駅でA・Iさんと待ち合わせ。今日飲もうと約束していたところ、「橋本さんが良ければなんだけど、明日、もし良ければ、三鷹に行かない?」と誘われていた。すぐに「太宰ですか?」と返信し、三鷹で待ち合わせる約束をしていたのだ。てっきり玉川上水の近くで飲むのかと思って缶ビールと赤ワインを買っておいたのだが、そうではなく、まずはお墓を目指すことになる。お供えの花がなく、アスファルトの隙間から顔を出していた小花をいくつか摘んだ。大きな通りに行き当たると、スーパーマーケットがあり、そこに百合の花が並んでいたので、お刺身やお菓子と一緒に買い求める。お墓についてみると、お参りできるのは日没時刻までで、門は閉ざされていた。

 そこから玉川上水を目指して歩いていると、「三ちゃん」という気になる外観の前を通り過ぎた。さっきの店、気になりますね。ラーメン屋だけど、何でも屋って貼り紙もありましたよ。ハートランドの瓶ビールを出してる店だったら立ち寄りたかったですね。えっ、ハートランドって書いてありましたよ?――そこで踵を返し、「三ちゃん」に立ち寄る。Aさんはラーメンを、僕は餃子とハートランドを注文する。空き瓶を花瓶にしたかったのだ。会計を済ませて、玉川上水。ここが入水自殺した人がいるなんて想像もつかないほど静かだ。Googleマップには発見の地が記されているけれど、特に碑などは建てられていないようだ。

 川べりを歩いているうちに、そこはもう井の頭公園であるらしかった。広いトラックがあり、ベンチがあるので、そこに座って飲み始める。そのだだっ広さに、武蔵野という言葉がどうしても思い浮かんでくる。広々とした公園は他の地域にもある。前住んでいた高田馬場であれば戸山公園があった。ただ、夜の戸山公園はあちこちで酒を飲んでいる人が目立っていた。でも、ここではほぼ全員がハイペースで走り、体を鍛えている。Aさんはなぜか禁酒を命じられているらしく、コーヒー牛乳を飲んでいた。まあ相手が飲まずとも構わないだろうと思っていたのだが、今振り返ってみるととても物足りない気持ちになった。僕にとってAさんは飲み友達になっていたので、僕ひとりだけ飲み続けるのはつまらなかった。赤ワインのボトルは半分も飲み干せなかった。この人と話すことはもう出来ないのではないかという気持ちにさえなったが、そのことは伝えなかった。身を投げた場所に花を備えて、総武線に揺られて帰途についた。

 と、ここまでの日記を書き終えたのは6月15日のことだ。今は6月19日で、飛行機に乗って空を飛んでいる。これから1週間は取材することと書くことに追われて過ごすので、6月13日から18日までの日記は書けそうにない。「この人と話すことはもうできないのではないか」と書いたけれど、その3日後、つまり昨日の晩、荻窪トークイベントをやったときにAさんは会場を訪れてくれて、そこで話をした。「そうやって『もう話せないのでは』とか、すぐそういう風に考えるからあかんのやで。そうやって言葉にすることで、ほんまに会われへんようになるねんから」とAさんに怒られたけれど、それは本当にその通りだと思う。どうしても閉じるほう、閉じるほうに考えてしまう。

この飛行機が向かっているのは沖縄だ。2013年、『cocoon』の舞台化に向けて沖縄を旅する皆に同行してからというもの、6月下旬には毎年沖縄を訪れている。今年は一週間、牧志公設市場近くのゲストハウスに滞在することに決めた。来年には建て替え工事が始まってしまうので、今年は市場の風景を記述して過ごそうと思った。その滞在記はここではなく、noteに書く。https://note.mu/hstm1982