2月6日

 5時半にアラームで目をさます。ここで起きないと焦るのは自分だと言い聞かせ、パッと起きる。シャワーを浴びて、念入りに歯を磨き、6時半にアパートを出た。千代田線で二重橋前駅に出て、東京駅でコーヒーを買って、新幹線に乗る。コーヒーに330円も払える身分だろうか、缶コーヒーで良かったのではないかと後悔しているうちに、7時10分、新幹線は動き出す。日記を書いたのち、今日の取材の質問リストを作る。京都を過ぎたあたりで、昨晩のうちにセブンイレブンで買っておいた焼きそばパンを食す。ソースの匂いが広がる。隣の人が咳払いをする。

 9時半過ぎに新大阪に到着。新幹線の駅で歯磨きを済ませ、大阪駅に移動。桜橋口でL社の編集者・Oさんと待ち合わせ。お会いするのはこれが初めてで、少し緊張する。小雨が降っているが、きっと昼頃には上がるだろうと傘は買わなかった。手配してくれたレンタカーに乗り込んで、取材へ。一軒目の店の方は、「俺の話なんか聞かんでええから、適当に書いといてや」とおっしゃる。毎年出る某誌も、昔は毎年取材にきていたけれど、2010年くらいからはずっと同じものを使いまわしているのだという。それもあって、その言葉になったのだろう。でも、『ドライブイン探訪』を見せると、ああ、そういう取材かとおっしゃり、あれこれ話してくれる。

 1時間半ほどお話を伺ったあと、企画の名所を見学。小説のタイトルでしか知らなかったが、思いのほか楽しい場所だ。ただ、時間がないので早々に切り上げ、次のスポットを少し見学。韓国人観光客の団体が忍者に扮していた。公園には折り紙で折った手裏剣が落ちていた。2軒目は繁盛店で、カウンターの端っこで立ったままインタビューすることになる。ここで挫けないくらいには厚かましい性格になったのだなあ。お店のお父さんは「なんも話すことなんかないよ」とおっしゃっていたけれど、あれこれ聞いていると、ぽつぽつとではあるにせよ話を聞かせてくれた。

 45分ほどでおいとまして、最後に『ドライブイン探訪』でも取材させてもらったお店に立ち寄る。昨年末に手術をされたばかりで、まだおぼつかない足取りだというのに、わざわざ出迎えてくれてお茶を淹れてくれる。30分ほどお話を聞かせてもらっていると、「そういえば、本で私のお母さんやと書いてくださってましたけど、あの方はお手伝いにきてくれてはる方なんです」と言われる。『月刊ドライブイン』の原稿チェックをお願いしたときに指摘してもらえたら――と思っても仕方がないので、他に見つかっている誤字・脱字と一緒に修正できるように、頑張って『ドライブイン探訪』を売って増刷してもらおう。そろそろおいとましようとしていると、「ちょっと待ってくださいね」と奥に下がり、「荷物になってすいませんけど」と大きな包みを手渡してくれる。営業を再開されたらまた遊びに来ますと約束して別れた。

 18時半、ホテルの近くまで送っていただく。そこで別れるつもりでいたので、「ホテルは天王寺です」と伝えておいたのだが、せっかくだから一緒に飲みに行きませんかと誘っていただいたので、「正確に言うと新今宮です」と伝え直す。「結構ディープなとこにしはりましたね」とMさん。安宿に泊まることを伏せていたみたいで恥ずかしく、いや、去年ツアーのときに皆と一緒に泊まって、狭くて風呂・トイレは共同だけど、不潔な感じはしないから、2千円と格安なこともあってそこに泊まってるんです――と、やたらと饒舌に説明してしまう。荷物を預け、レンタカーを返却し、近くにあるL社に挨拶。そこからほど近い場所にある酒場で乾杯。最近勢いのある酒場らしく、店内は大賑わいだ。ここの特徴は、冷蔵庫から自分で日本酒を取り出し、自分でグラスに注げること。380円、480円、580円と三つの価格帯があるけれど、おごってもらうことになりそうなので、380円の日本酒をクイクイ飲んだ。

 21時半、店を出たところでMさんと別れ、動物園前まで戻ってくる。ファミリーマートアサヒスーパードライを買って、動物園前一番街商店街をぶらつく。この時間でも営業しているのは、カウンターだけの飲み屋で、お客さんの歌声が外にまで聴こえてくる。そこに割って入るのも悪い気がして、ひたすら歩く。途中で東に折れて、自転車をこぐ小学生とすれ違った少し先、灯りが煌々と輝き、男たちがそぞろ歩くエリアに至る。向こうにはあべのハルカスがそびえている。ぱきっと町が分かれていて、いつも驚く。「ZAZEN BOYSをあれだけ聴いてきたのに何を言っているんだ」と言われるかもしれないが、性的衝動を満たすためにお金を払う人がこんなにも存在していることにびっくりする。お金を払ってまで――いやお金を払わずとも――誰かと肉体的に交わることを渇望するという気持ちが、よくわからない。玄関を上がってすぐの場所に座り、ライトに照らされた女性たちを眺めながら歩いていたが、入る気のない僕にまで営業用の笑顔とポーズを示してくれるのが申し訳なく、途中からはただ前を見ながら、ささくれだった気持ちでビールを呷りながら歩いた。ある店の前を通りかかると、僕があまりにささくれだった感じになってしまっていたのか、「お兄ちゃん、どないしてん」と、玄関に佇む二人の女性が笑っていた。