3月22日

 7時過ぎに起きる。冷静になって、『絶メシロード』のことを考える。なめくさった態度のまま、謝罪めいたことで幕引きしようとされるのが目に見えているので、昨晩つぶやいた強めのツイートは消しておく。昨晩のうちに担当編集者にはメールをしておいたので、正式に抗議することを考える。コーヒーを淹れて、テープ起こしに取り掛かる。途中で気分転換にと、布団を干す。12時過ぎに取り込んで、花粉も、布団についていたホコリも吸い尽くせるように、念入りに掃除機をかける。

 午前中には来週末に掲載される書評のことを考える。文字数が少ない欄に掲載されることもあり、ボンヤリ考えているうちに原稿が固まり、完成する。もうウェブサイトに予告が出ているが、次は『90歳セツの新聞ちぎり絵』について書く。この本を編集したKさんは、僕が「ライター」と書かれた名刺を印刷したばかりの頃から仕事をしている(ただし、「そのよしみで書評する」ということではない、Kさんとは10年前に大揉めして以来、仕事をしていないのだから)。この本は、ドキュメンタリー映画がきっかけで編集者を志したKさんならではの構成になっていると思う。SNSやテレビで話題になった「新聞ちぎり絵」を書籍化するのであれば、普通はもっと、ほっこりした雰囲気を際立たせて本にするだろう。でも、そうではない部分が仄見えるように――「強調する」ではなく、あくまで「仄見える」ように――編集されている。奥付を確認すると、デザインは名久井さんが担当されていると知り、なるほど……と深く納得する。

 昼、知人は豚丼を、僕は納豆豆腐そばを作り、昼食をとる。15時過ぎにアパートを出て、三軒茶屋「AJTM」へ。月曜から入院するかもとおっしゃっていたので、その前におかみさんに原稿の相談をと、やってきたのだ。「あなたの文章、よかったよ」。僕に気づくなり、おかみさんが言ってくれてホッとする。「だけどあなた、あの××さんにだいぶいじめられてるんじゃない?」と、前回は少し遠慮がちに話してくれた件について、おかみさんが話してくれた。

「坪内さんの秘蔵っ子だ教え子だってやってるけど、あんなの全然たいしたことないのにって、なんだかずいぶんボロクソに言うもんだから、あなたのことがかわいそうになっちゃってね。私はね、人を見くだりする人は嫌いなの。それに悪く言われてる人の方が好きなんですよ」。おかみさんはそう続ける。「まああなたも、人になんと言われようと、自分は自分で生きていかなきゃ駄目。まず飾らないこと。人に惑わされないこと。自分の信念を貫いていかないと」。こんなふうにおかみさんが心配してくれるくらいにぼろかすに言われていたのだろうなと思う。原稿に関して直すところはまったくないとのことで、本が完成したら持ってきますねと告げて店をあとにする。

 田園都市線副都心線を乗り継ぎ、池袋に出る。宮城ふるさとプラザに立ち寄り、墨廼江――は在庫がないので、萩の鶴を買い求めてM&Gの事務所へと向かった。今日は宮城で公演があるはずだったが、延期となってしまったので、ささやかに飲み会を開催しようという話になったのだ(だから宮城の酒を買ってきた)。到着してみると、F.TさんやA.Iさんがキッチンに立っている。Fさんはキーマカレーを、Aさんはゴーヤチャンプルーを作っているところだ。その後ろには背の低い台があって、先日沖縄で買ってきた沖縄戦をめぐる本が並んでいる。